

飲食店を経営していると、会計時によく言われるのが「領収書ください」という言葉ではないでしょうか。そのような領収書ですが、皆さんは、領収書には正しい書き方があることをご存知でしょうか。実は何となく書いている……という方も中にはいらっしゃるかもしれません。
しかし、領収書の書き方に不備があると、渡したお客様が経理処理をする時に困ったり、場合によっては知らない間に脱税行為をしていることになったりするのです。
そこで今回は、領収書の正しい書き方についてご紹介いたしますので、しっかり実践しましょう。
領収書とは

領収書の目的は?
領収書とは何のために発行するのでしょうか。また、領収書を必要としている人とはどのような人なのでしょうか。
まず領収書とは、自分がお金を確かに受け取ったという証明書です。飲食店でもらった領収書を会社に提出することで、それは「確かに支払った」という証明になります。会社の規定にもよりますが、その飲食代を「仕事上必要な食事代」と認められれば、会社から支払ってもらえます。その飲食代が「個人的な飲み食い」だと判断されれば、支払われない場合もあるでしょう。
会社はその領収書を証拠書類として、使ったお金を必要経費として利益から差し引き、税務署に申告して納税額を少なくします。個人事業主の場合も同様に、もらった領収書を証拠書類にして、確定申告で納税額を少なくします。
つまり、「領収書」は会社に対する「仕事上必要な飲食代を払った」証明となります。会社や個人事業主にとっては、税務署に対して必要経費の証明になるものなのです。
そういう意味では、飲食店経営者の方の場合も、店舗で使うための物品を購入した場合などは領収書をもらい、税金の申告時に必要経費の証明にしているはずです。
「領収書」と「領収証」どちらが正しいのか
税金関係の書類を読んでいると、その中に領収「書」という言葉が出てきたリ、領収「証」という言葉が出てきたりして、いったいどちらが正しいのだろうと戸惑うかもしれません。
実は、「領収書」と「領収証」との間には明確な違いはありません。厳密に言えば、「領収証」はお金のやり取りがあった時に、受け取った側がその事実を証明するために発行する書類のことで、役所や金融機関はこの言葉を使います。一方、「領収書」はお金だけではなく商品も含めた受取りの事実を証明するために発行する書類のことで、一般のお店や企業がこの言葉を使う場合が多いでしょう。
実際にはどちらも混同して使われていますので、あまり気にする必要はないでしょう。
領収書を正しく書く理由とは

領収書の正しい書き方がなぜ重要かというと、内容に不備があったり間違ったりしている場合、税務署がそのお金を必要経費だと認めてくれない可能性があるからです。そうなってしまうと、会社や個人事業主は税金を多く支払わなければなりません。
したがって、会社としては社員が飲食店の領収書を持ってきた時に、その代金をまず税務署が認めてくれるかどうかという観点でチェックし、そこで合格しなければその代金を支給してくれません。つまり、領収書が受理されなければ、飲食代は個人負担になってしまいます。
こういったことから、税務署が認めてくれる正しい領収書を発行しなければ、お客様に損をさせてしまう可能性があるのです。
また、中には「日付を空白にしてほしい」などと要求してきたリ、さらにひどい場合は「金額を白紙でちょうだい」という場合もあるかもしれません。これは、本来は個人の飲食代なのに、取引先などと飲食をしたように見せかけるために、スケジュール上矛盾がない日付の領収書にしようとしたり、あるいは、本当に使った代金より水増しをして会社に請求し、その差額を儲けようとしたりすることが目的とされます。
そのため、このような要求は悪事の手助けをすることになりますので、お断りしましょう。たとえば、実際の支払額に1万円を上乗せして書いてあげたりした場合は、最悪のケースでは私文書偽造、あるいは詐欺罪のほう助として、飲食店側が訴えられる可能性もあります。訴訟問題に発展しないよう、最大限の注意が必要です。
領収書の正しい書き方

正しい領収書の書き方についてご説明します。
記入する日付
日付は、飲食代を受け取った日付を記載します。注意して頂きたいのは、「飲食をした日」ではなく「代金を受け取った日」です。たとえばツケの場合、ツケの元となった飲食の日ではなく、後日ツケを支払ってもらった日の日付で発行するのが正しい書き方です。
また、日付を空白にしたり、実際と違う日付で書くことは、非常に悪く言えば詐欺罪の片棒を担ぐことになりますから、絶対にやめましょう。
金額の改ざんを防ぐための金額の書き方
支払った代金を上乗せしたり、架空の飲食代を支払ったことにして税金を安くしたりして会社からお金をだまし取ることを防ぐために、領収書の金額欄は、あとから改ざんできないように書くことが基本です。
具体的には
- 金額の頭に「¥」マーク、または「金」と書く
- 金額の最後に「-(ダッシュ)」マーク、または「也」と書く
- 金額は三桁ごとに「,(カンマ)」をつける
ということによって、改ざんを防ぎます。
飲食店ではあまり多くはありませんが、金額が十万円、百万円という大きな単位になる場合は
- 「1」万円」のかわりに「壱」
- 「2」は「弐」
- 「3」は「参」
- 「5は「伍」
- 「十」「10」は「拾」
- 「万円」のかわりに「萬円」
と書いたほうが、より領収書の信頼性が高まります。
また、金額は基本的に税込みで記入します。お客様から税抜きで書いてといわれた場合は、消費税分を但し書き欄に書きます。
領収書の宛名
宛名は正式名称で書きます。株式会社であれば「株式会社●●」「●●株式会社」です。「(株)」という書き方はNGです。
「上」様も基本的にはNGとなります。中には、「宛名はお客様の方で」と気を利かしたつもりで渡す飲食店もありますが、それもNGです。なぜなら、業務上必要な経費かどうかがそれでは判断できないからです。
領収書の但し書き
決まった書式の領収書の場合、金額欄の下に「但し」という記載があります。ここに書く内容を、「但し書き」と言います。
但し書きとは、その費用が本当に必要経費になるかどうかを証明するものです。たとえば、焼き鳥屋でお客様が家で食べるために持ち帰りをした焼き鳥の領収書を、「品代として」ではなく「飲食代として」と書いてしまうと、その領収書はその店で飲食をしたことを証明するウソの領収書になってしまいます。ですから、但し書き欄も正しく書く必要があるのです。
また、仮に本当に正しく使った必要経費の場合でも、会社の経理担当者は但し書きを見て、その経費が「接待費」なのか「福利厚生費」なのかなどと判断します。重要な判断材料としても、正しく書く必要があるのです。
ただし、飲食店の場合の但し書きはそれほど種類がありませんので、
- お食事代として
- 飲み物代として
- お品代として(持ち帰りなどの場合)
の3つ程度で対応できるでしょう。
領収書には収入印紙が必要

領収書の「正しい書き方」は、お客様や領収書の請求先となる会社にとって必要な「正しさ」となります。しかし、領収書は飲食店側にとっても大切な「正しい書き方」があります。飲食店が正しい書き方をしていなければ、国税庁から「脱税」だとみなされてしまうので注意が必要です。では、飲食店が注意しなければならないのは何か。それは、「収入印紙」の問題です。
収入印紙が必要な理由
収入印紙は、領収書の隅に貼る「切手」のようなものです。収入印紙は店側が前もって購入しておき、飲食代などの支払額に応じて領収書に貼らなければなりません。
その理由は、一定額以上の収入が店側にあって、それを証明する書類である領収書を発行した場合、「払った・払わない」のトラブルが生じて裁判などになった際の証拠書類になるからです。つまり、訴訟の際には国が領収書を受け取った事実、支払った事実を証明してくれることになります。国への「証明代」として国に納めるのが「印紙税」です。実は、収入印紙を買うということは、それ自体が国に税金を納めていることなのです。正しい言い方をすれば、収入印紙は「買っている」のではなく、「印紙税」を払った証明として発行してもらっているのです。
貼らない場合罰金も
法律で定められた規定に沿って収入印紙を貼らない、つまりは印紙税を払っていないということはすなわち脱税になります。支払っていない事実が税務署に指摘された場合は、罰金を含めた税金を国に納めなければなりません。
印紙税法という法律の中では、「収入印紙を貼らなかった場合は、払うべき印紙税のほかに、収入印紙の額面の3倍の金額を過怠税として支払わなくてはいけない」と定められています。つまり、たった200円の収入印紙をごまかしただけで、800円の税金がかかるのです。
それが1件だけであれば少額で済むでしょう。しかし、慢性的に印紙税を支払っていないのであればすべてさかのぼって調査され、最悪の場合何万円、何十万円と税金を納めなければならないこともあり得ます。
ですから、規定に基づいて必ず収入印紙は貼ることが大切であり、経営者の義務でもあります。
収入印紙はいつ貼ればいいの?
では、どのような場合に収入印紙を貼る必要があるのでしょうか。原則としては1回の受取額が5万円以上の領収書を発行する場合からとされています。あとは、受取額に応じた以下の額面で決まってきます。細かく言うと、領収書に記載する金額が税込みの場合は税込5万円以上で印紙を貼ります。消費税が別に記載してあり、金額欄が税抜きの場合は税抜き5万円以上で貼ります。受取額に応じた収入印紙の金額を下記に記載しておきますので、ご確認ください。
- 5万円以上 100万円以下に必要な収入印紙:200円
- 100万円超 200万円以下に必要な収入印紙:400円
- 200万円超 300万円以下に必要な収入印紙:600円
- 300万円超 500万円以下に必要な収入印紙:1000円
収入印紙には割印が必要
収入印紙を貼ったら、「割印」が必要です。これは、収入印紙を受け取った人が上手く剥がして流用することを防ぐためのものです。割印の方法は、収入印紙と領収書をまたいで店長などの印鑑を押すか、あるいはサインをすることになります。
クレジットカード払いの領収書の書き方

ここまでご紹介した内容は、「現金で」支払っていただいた場合の領収書の書き方です。では、現金での支払方法と並んで多いのとされるクレジットカードでの支払いの場合はどうなるのでしょうか。クレジットカードの場合、領収書の扱いが現金とは異なりますので注意が必要です。
クレジットカードの場合は領収書発行の義務はない?
厳密に言うと、クレジットカードで支払っていただいた場合、店舗はお金を受け取っていません。つまり、後日クレジットカード会社から支払うということをお客様から一種の「ツケ払い」として言われているので、店側としては店舗が契約しているきちんとしたクレジットカード会社ならと信用し、「ツケ払い」を了承したということになるのです。つまり、クレジットカードとは「信用取引」です。
領収書は先ほどご説明したように「代金を受領した証明」ですから、クレジットカードで「支払った」といっても、実は「受け取ってはいない」のです。本当の受け取りは、クレジットカード会社からの入金があった時点です。
ですから、本来的にはクレジットカードでの支払いの場合、店側としてはその代金に対する領収書の発行義務はありません。その代わりに、お客様には「カード控え」という形で、クレジット伝票をお渡しすることで、お客様側に支払いの管理をしてもらうことになります。
領収書がほしいと言われたら?
クレジットカードで支払われたお客様の中には、どうしても領収書が欲しいという方も多いはずです。この場合、発行は法的に「禁止」されているわけではありませんから、発行するかどうかは店側の判断に委ねられています。したがって、発行しても問題はありません。
ただし、その場合は領収書の但し書き欄に必ず「クレジットカードにてお支払い」と記載しましょう。それによって、この書類は法的な領収書ではないという証明になります。
クレジットカード払いの場合は収入印紙は不要?
「クレジットカードにてお支払い」という但し書きがなぜ重要かというと、この言葉を書くことで、その書類は税法上の「領収書」ではないということの証明になるからです。これにより、たとえ5万円以上の金額であっても、収入印紙を貼る必要がなくなります。
クレジットカード払いであったにも関わらず、その旨を但し書きに明記しない場合は、その書類は「領収書」になってしまいます。よって、5万円以上の場合には収入印紙を貼らなくてはなりません。
これらの点を考慮に入れ、クレジットカード支払いの場合には十分に注意しましょう。
まとめ

いかがでしょうか?
何気なく書いていた領収書も、実はそれぞれの項目に意味があり、正しい書き方があるのです。これを守らないとお客様に迷惑をかける場合も、店舗が損害を受ける場合もありますので、領収書について十分理解をして正しく実行しましょう。