『雇用保険』は経営者にとってぜひとも身に付けておきたい知識の1つです。
労働環境を整え働きやすい環境をつくることは、従業員の確保だけではなく接客の質を上げ、お客様の満足度をアップさせることにも繋がります。こちらでは各種の雇用保険制度や、加入条件について詳しく解説していますのでぜひ参考にしてみて下さい。
雇用保険とは?
雇用保険とは、被雇用者である従業員の生活の安定のために設けられている、様々な保険制度のことを指します。
その中でも特に有名なものとして、「失業手当」があげられます。失業手当とは従業員が失業した際、次の働き口を見つけるまでに支払われる一時給付金のことです。失業者が当面の生活の心配をせず、求職に集中することができる環境を整備する目的で設定されています。
また、その他の雇用保険としては以下のようなものがあげられます。
- 育児休業給付金
従業員が1歳未満の子供を養育する際、育児休業を申請すると給付金が支給される制度です。ただし、育児休業中も一定以上の出勤数や賃金をキープしている場合は対象外となることがあります。 - 介護休業給付金
従業員が家族を介護する目的で休業を申請した際に、給付金が支給される制度です。ただし、こちらも介護休業中に一定以上の出勤数や賃金がある場合は対象外となります。 - 教育訓練給付金
従業員が厚生省の定めた教育訓練を受ける場合、受講料の一部が支払われる制度です。主に専門的な分野の資格所得講座や専門学校の職業実践課程が対象となり、調理師や栄養士などがそれに当てはまります。 - 高年齢雇用継続基本給付金
高齢の労働者が、加齢に伴い賃金の低下が起こった際に支給が行われる制度です。60歳以後も就労しており、賃金がそれ以前の75%未満に低下した際に一定額が支払われます。60歳以上65歳未満で、雇用保険に通算5年以上加入していることが条件です。
これらは現在就業中の従業員に向けた制度であり、上手に活用することで様々な年齢、ライフスタイルの方が働きやすい環境をつくることができます。
特に育児休業給付金に関しては、昨今の女性の社会進出に伴い需要が急増しています。女性が働き口を探す際には、この育児休業制度の有無を重視する傾向にあるでしょう。
また、この他に事業主に対する給付金も用意されています。主に従業員のキャリアップを促進する試みをおこなったり、高齢者や身障者といった就職困難者を雇用した際に一定の助成金が支払われる制度です。
雇用保険のメリット・デメリット
雇用保険に入った時、どのようなメリットを得られるのでしょうか。また、デメリットはないのでしょうか。まずは、この部分を掘り下げて説明していきたいと思います。
率直に言うと、雇用保険でメリットを感じることはほとんどありません。それのそのはず「保険」という名前がついていることからも分かるのですが、保険なので、何かが起きないとその効力は発揮されません。
つまり、雇用保険に入っているからと言って、四六時中恩恵を受けれるかといえば、そうではないのです。じゃあ、雇用保険にメリットはないのかというと、そうでもありません。
「雇用保険に入っていて良かった!」
と思う時は、失業した時といえるでしょう。今の職場を退職して、次の職場を探すことになったときは、少なからず働いていない期間がでてしまいます。直ぐに仕事が決まれば良いですが、決まらないと焦りますよね。
でも、雇用保険に入っていれば、失業給付金を受けとることが可能となるために、落ち着いて、安心して求職活動をすることが可能となります。これが、雇用保険に入ることのメリットといえるでしょう。
でも、これだと同じ職場で勤め続ける限りは雇用保険のメリットを得られないことになるのですが、勤務中でもメリットを受けることができます。それは、キャリアアップなどで何かしらの金銭的負担が発生したときです。
こういった、条件つきで費用が発生するような場合は、雇用保険から支払うことができるので、自己負担を減らすことができます。その他、育児や身内の介護などで休職することになった時の給付金も雇用保険に入っていれば得ることができるようになっています。
このように、雇用保険は…
- 失業
- 育児休暇
- 身内の介護
- キャリアアップ
など「何かあるとき」「何かあったとき」にしか、その恩恵を受け取ることはできません。その為、雇用保険に入ることを嫌がる方もいるのですが、万が一の事態を考えれば入っていた方が得といえるでしょう。
雇用保険に入ることでデメリットがあるならば、簡単に決断することはできないでしょうが、雇用保険にはこれといったデメリットはありません。
強いてあげれば毎月の保険料でしょうか。
ただ、保険料は平均して月1000円くらいなので、デメリットと言えないようにも思えます。
雇用保険の加入条件を知ろう!
雇用保険の加入条件は、従業員の雇用形態によって異なります。
- 正社員
正社員として従業員を雇用する場合は、原則として雇用保険への加入が義務付けられています。これは会社や個人事業所の区別なく、従業員を1人でも雇用する場合は適用となりますので注意が必要です。会社に常時籍を置いている社員はすべて加入の対象となり、制度改正により2017年1月1日をもって年齢制限もなくなりました。また、たとえ試用期間であってもすべての従業員に適用されます。 - 派遣社員
非正規従業員が雇用保険に加入する場合は、以下の2つの条件を満たす必要があります。- 1週間の労働時間が20時間を超える
- 31日以上継続して雇用される
労働時間に関しては1週間の通算労働時間なので「1日4時間×5日間」でも、「1日8時間×3日間」でも加入の対象になります。 また、雇用期間に関しては見込みでも適用されるので、契約時に31日未満で解雇となる規定等がなければ働き始めてすぐに適用されます。また、当初は31日未満の契約であっても、途中から31日以上の雇用契約となった場合には、変更が決定した時点で加入条件を満たすことになります。
- 日雇い労働
日単発や雇用契約が30日未満の日雇い労働者であっても、雇用主が雇用保険の適用事業所であれば所定の手続きを済ますと加入することができます。 また、日雇い労働者であっても同じ雇用主のもとで31日以上継続で働いたり、2カ月以上月あたり18日間働いている場合は、一般被保険者となり雇用保険上は社員と同等の扱いとなります。
雇用保険の計算方法を知っておこう!
雇用保険の計算方法は事業内容によって異なり、それぞれに設定された『雇用保険料率×賃金の総額』で求めることができます。雇用保険料率は「一般事業」「農林水産清酒製造事業」「建設事業」の3種類に分けられていますが、ここでは一般事業の場合の計算方法をご説明いたします。
前述の通り雇用保険にも様々な種類がありますが、失業保険に関しては従業員が一定額の保険料を支払うことになります。これは、年金や健康保険と同じで、一定額を継続して支払うことで、自らが失業した場合に給付金を受け取ることができるというものです。
その場合、一般事業の労働者負担額は『月の賃金×0.005』で求めることができます。
つまり、仮に月22万の賃金を受け取っている場合は以下のような計算になります。
22万円(月の賃金) × 0.005(保険料率) = 1,100円
よって、この場合はひと月あたり1100円の雇用保険料を支払うことになり、多くの場合は給与から天引きされます。
一方、雇用保険料の事業主負担は『月の賃金×0.0085』で求めることができます。
つまり、仮に月22万で雇用している従業員に対して、事業主が負担する雇用保険料は以下のように計算することができます。
22万円(従業員の月の賃金) × 0.0085(保険料率) = 1,870円
よって、このケースの従業員1人に対して、事業主側は月に1,870円の雇用保険料を負担することになります。
社員だけじゃない!アルバイトやパートも雇用保険に加入できる
あまり知られていませんが、実は雇用形態がアルバイトやパートであっても、一定の条件を満たすことで雇用保険の加入対象となります。
アルバイトやパートの従業員が雇用保険に加入したようと思った場合、加入条件は派遣社員と同じで以下の2つを満たす必要があります。
-
1週間の労働時間が20時間を超える
-
31日以上継続して雇用される
1週間の労働時間が20時間というのは、前述の通り1日4時間労働であっても平日フルで出勤すれば達成できる計算です。アルバイトの場合は1日平均6時間程度の就業時間が多いと思いますが、それでも週に4日出勤したら加入条件を満たすことになります。
従業員が少ない程、1人当たりの出勤時間も増えることが多いですが、たとえ1人であっても雇用していれば雇用保険の要件を満たすので注意が必要です。
また、実は雇用保険の加入条件を満たしているのに、知らないまま働いているアルバイトやパートの方も多いのが現状です。雇用主としては、事前にしっかりと説明するのが親切でしょう。
飲食店で必要になる労災保険とは
労災保険と言う言葉を聞いたことはあるでしょうか。中には「労働保険なら知っているけど…」という方もいるでしょう。でも、この両者は同じのようで、異なるものとなっています。
答えから言いますと、労働保険とは雇用保険と労災保険をまとめた呼び方となっています。つまり、労災保険は単独で存在しているわけです。では、労災保険とはどのような保険なのでしょうか。
労災保険とは、労働者が業務中、または通勤途中に何かしらの傷害だったり、疾病にかかってしまう、最悪、死亡したケースに保険給付を行う制度となっています。対象者は労働者となっているので、店が加入するわけではありません。
しかし、雇う以上は上記で述べたリスクを店舗側が抱えることになるので、雇用者全員に入ってもらうのが一般的となっています。
ただ、労災保険においては、入っていれば自然と適用されるわけではありません。こちらも、何かが起こった時の「保険」なので、当然ながら処理が必要になってきます。そして、この処理を労働保険事務組合に委託していることが適用の条件となっています。
組合が処理をしてくれて、所轄の局長が承認した場合にのみ、労災保険が下りるというわけです。つまり、労災保険に入っているからといって、絶対に保険金が出るわけではないということは頭に入れておきましょう。
最後に、雇用保険、労災保険の加入方法についてお話していきます。この2つをまとめた労働保険ですが、公共職業安定所などに「保険関係成立届」を提出し、その後、概算保険料申告書の作成と納付を行うだけでOKです。
それほど難しい手続きではありませんし、時間もかからないので、新人スタッフが保険に加入するたびに、オーナーが事務処理を追われたりする心配はありません。
また、自身のリスクを考えれば、労働保険は非常にありがたい制度なために入らない雇用者に入らせないオーナーはいないと思いますが「なんか面倒だから…」といって、雇用保険、労災保険をスタッフに入らせないようなことは絶対にお勧めできません。
保険に入ることは、オーナーにとっても、スタッフにとってもメリットがあるので、お店の基本制度としておきましょう。
まとめ
今回ご説明したように、実はアルバイトやパートでも場合によっては雇用保険の加入対象となることがあります。雇用保険の存在自体は知っていても、被雇用者側は雇用主からの通達がなければあまり意識しないもの。
しかし、それは雇用主も同様です。後から指摘されてしまわないためにも、開業したら雇用保険に対する知識を深めて、あらかじめ従業員と情報共有しておくことがとても大切です。
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