RaaSとは?新しいサービスが誕生した背景や利用するメリット

開業・経営

RaaSとは、小売事業者が蓄積した顧客データや販売ノウハウにテクノロジーを掛け合わせ、支援サービスを開発・提供するビジネスモデルです。

近年、小売業界で注目を集めている「RaaS」ですが、「何なのかよく分からない」「自社に役に立つのか知りたい」という方も多いのではないでしょうか。スマートフォンの圧倒的な普及やコロナ禍により社会が変化し、小売業界も変化が求められています。RaaSは、その変化に対応するためのテクノロジーのひとつです。

本記事では、RaaSの基本的知識と誕生の背景、具体的な事例を解説します。小売業界でビジネスを展開されている方や参入を考えている方はぜひご覧ください。

Raasとは

まずはRaaSの基礎知識と利用するメリットを紹介します。SaaSなどの混同されやすいワードについても確認しましょう。

小売事業者向けの新しいBtoBサービス

RaaSは、小売事業者が自社の販売・運営ノウハウをパッケージ化して別の小売事業社に提供するサービスで、読み方は「ラース」です。「Retail as a Service」の略で「小売のサービス化」と直訳できます。

小売企業がこれまで蓄積してきた顧客データや販売ノウハウと、テクノロジー企業の技術が組み合わさったサービスです。RaaSは、物流業界の用語やセキュリティ用語としても使われていますが、本記事で解説している小売業界のRaaSとは別物なので注意してください。

なお、類似語のSaaSは「Software as a Service」で、クラウドサーバー上にあるソフトウェアをインターネットを介してユーザーが使用することを指します。

RaaSを利用するメリット

RaaSを利用するメリットは、小売業の現場ですでに成功している仕組みをローコストで導入できることです。従来は、各小売企業が自社で店舗運営ノウハウの開発を行うのが主流で、コストがかかっていました。RaaSの導入企業は、この仕組みの開発コストが不要になります。

中小規模の事業者やスタートアップにとって、店舗運営ノウハウの開発コストと時間が不要になるのは、大きなメリットです。

一方で、大規模事業者にもメリットはあります。それはRaaSの導入で浮いた分の時間などのリソースを競争力強化に使えるようになることです。データ分析や業務改善、マーケティングなど、将来に渡って事業を継続するための課題の解決を進められます。

RaaSが誕生した背景

RaaSが誕生した背景には、テクノロジーや社会の変化に伴う顧客行動の変化があります。ここでは、RaaSが誕生する背景となった顧客行動の変化について具体的に解説します。

顧客の購買経路の多様化

かつて、顧客が商品を買うには、店舗へ足を運ぶ必要がありました。企業は「いかにして店舗に来てもらうか」をベースにした施策を検討し、実施していました。それが今や、リアル店舗での購入は手段のひとつでしかありません。

ECサイトやフリマサイトによる取引など、IT技術の活用と企業のDX対応により、購入経路は多様化の一途をたどっています。また、デジタル化のみならず、「O2O(Online to Offline)マーケティング」の推進も加速しています。

この新しい購買経路に柔軟に対応する仕組みの構築にもRaaSが役立ちます。大手企業のような資金力やノウハウがない中小規模の小売業者でも、RaaSを活用することで簡単に仕組み化が可能です。

購買経路が多様化した現代では購買経路の選択肢を増やすことが、より多くの顧客を囲い込むことに直結します。

顧客の購買行動の多様化

顧客の購買行動は、IT技術の進展により少しずつ変化し続けていましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大が、より拍車をかけました。具体的には、人と接しないようにオンラインで買い物を完結するようになったことなどです。

SNSの普及に伴い購買行動モデルも変化しました。近年では、企業によるテレビCMよりも、購入者の口コミなどを重視する人が多い傾向にあります。これらの多様化した購買行動への対応手段として、RaaSが重宝されています。

店舗での新型コロナウイルス感染症への対応も、RaaSを加速させる背景のひとつです。店舗の現場では、新型コロナウイルス感染症の影響で、人との接触を最小限にする努力が行われています。無人レジ導入が急速に進んだことや釣り銭の受け渡しをトレイで行うなどの変更があげられます。

RaaSの事例紹介

RaaSは、すでに世界的大企業で導入が進んでおり、新しい顧客体験を生み出しています。ここでは、いくつかの事例をご紹介します。

スマートシェルフ

スマートシェルフは、デジタル技術を搭載した新しい陳列棚です。アメリカのKroger社とマイクロソフト社の協業で開発されました。商品の在庫状況をリアルタイムに把握でき、消費者ごとに最適なPOPや広告を電子ディスプレイ棚に表示可能です。

この仕組みの一部である顧客データ分析と電子POP表示は、日本国内でもKroger社と大日本印刷が協業し、「デジタルシェルフ」として実証実験中です。

レジ無し決済システム

顧客が店舗から品物を持ち出すと自動的に決済されるシステムで「Amazon Go」という名称です。Amazon社が、RaaSとして外部に提供しています。カメラセンサーとAI技術によって店内から持ち出された商品が自動検出され、レジを通さずに会計が行われます。

あらかじめ買い物客が登録したクレジットカードを通して支払いが行われる仕組みになっており、店舗のレジが不要になるなど、これまでの小売業の常識を覆すサービスです。人件費やランニングコストの削減などが期待できます。

体験型ストア

一等地の店舗スペースを月額レンタルするサービスで、サンフランシスコのRaaSリューション企業「b8ta(ベータ)社」が提供しているサービスです。

小売企業から展示依頼された製品を、来店者に体験してもらう場を提供しています。また、来店者の行動を観察してデータの取得や分析も可能です。日本国内では、新宿・渋谷・有楽町などに店舗があります。

小売企業は、実店舗を出店するリスクを取ることなく、一等地の店舗スペースで製品を紹介することが可能になります。スモールビジネスにとっては、大きなビジネスチャンスとなるでしょう。

RaaSの活用で競争力の確保をはかろう

情報技術の発展や社会の変化により、消費者の購買行動は多様化しています。今後もこの流れは続くことが見込まれ、RaaS活用の重要性は高まるばかりです。すでに他社で成功しているRaaSを積極的に自社に導入するなど、時代と顧客の変化に対応していくことが大切です。

その際、他社の成功モデルを活用しつつ、自社の強みを探ることが、競争力の確保につながります。例えば、RaaSを用いながら、POSレジで取得した顧客データを活用することができます。

これまで顧客データの取得を行ってこなかった小売企業であれば、自社のデータを見える化することにより新たな顧客体験価値を提供できるなどの成果が期待できます。RaaSとデータ化を掛け合わせて、独自のマーケティング施策の実現を目指してみてはいかがでしょうか。