飲食店の魅力について識者に聞くと、「現金商売で日銭が入ってくること」という答えが返ってくることが多いです。間違ってはいませんが、だからといって、融資が全く不要という前提で開業をすると大きな落とし穴にはまり、最終的には廃業に追い込まれることもありえます。そのため、飲食店を開業するにあたっては、必要十分な運転資金を確保するとともに、必要であれば融資を受けましょう。
そこで今回は、上手な融資の受け方と、審査を通すコツについてご紹介します。
融資が必要な理由
飲食店は「現金商売」でありながら、なぜ融資が必要なのかという点についてご説明します。
飲食店開業時の後悔は自己資金の不足
日本政策金融公庫が飲食店の経営者にとった「開業時に注意しておけばよかったと感じる事」の調査によると、最も多い回答は26.8%で「自己資金が不足していた」でした。次いで「従業員の教育」(25.9%)、「ターゲットの明確化」(23.0%)が続きます。
自己資金が不足していたというのは、言葉を換えれば開業資金、運転資金をもっと潤沢に確保しておけばよかったということでしょう。
「現金商売だから運転資金は1ヶ月で十分」は間違い!
飲食店開業のコンサルタントに相談すると、「飲食店は現金商売だから、運転資金は1ヶ月分あれば十分」と言われることがあるようです。しかし、この発言は早く開業して自分の顧客になってほしいための発言か、飲食店の実態を知らない発言と考えられるため、鵜呑みにしないよう気をつけましょう。なぜなら、運転資金は1ヶ月分では到底足りないのです。
たしかに、開店当初は知り合いや近所の人が来店することで売上が上がり、多額な現金が入ってくる可能性はあります。しかし、開店したばかりの売上は、言ってみれば「ご祝儀相場」ともいえます。飲食業の基本として、新規客のリピート率は高くて50%、来店頻度も3ヶ月に1回が平均とされます。よって、開業して2、3ヶ月目にも、初月と同じように繁盛するとは言い切れないのです。
ですから、少なくともある程度の固定客が蓄積されるまでは、赤字か赤黒ギリギリの状態での営業が続くと見ておいたほうがよいのです。
できれば6ヶ月分の運転資金が必要!
では、具体的に何か月分の運転資金が必要なのでしょうか。
日本政策金融公庫の調査では、開業後、軌道に乗り始めるまでの期間に6ヶ月以上かかっているお店が64%以上ありました。
以上のデータを1つの目安にすると、6ヶ月以内に軌道に乗る自信があるという場合は、半分の3ヶ月程度の運転資金が、1年以内に軌道にのる自信がある場合は、6ヶ月程度の運転資金を用意したほうがいいということです。
しかし、6ヶ月分の運転資金を貯金でまかなうとなると、貯金をするだけで何年もかかってしまう可能性があります。時間が経てば経つほど自分の体力も気力も衰えていきますし、場合によってはせっかく見つけた良い物件を逃してしまうかもしれません。ですから、「時間を買う」ためにも、運転資金に対して貯金で不足している分は、融資で補てんすることが重要なのです。
飲食店への融資の種類は?
飲食店を開業する際の代表的な融資制度を挙げましょう。
新創業融資制度
日本政策金融公庫が開業予定、あるいは開業直後の経営者に無担保、無保証で融資する制度です。融資限度額は3,000万円で、うち運転資金は1,500万円です。
中小企業経営力強化資金
日本政策金融公庫の融資で、基本は「新創業融資制度」と同様です。ただし、上記は自分で手続きをするのが基本ですが、こちらは税理士などの専門家のサポートが必要となります。融資限度額は7,200万円、うち運転資金は4,800円ですので、大型店舗にするのであれば、こちらの利用が必須になってきます。
信用保証協会融資
「制度融資」とも呼ばれる、都道府県や市区町村の資金を金融機関を通して貸し付ける融資制度です。信用保証協会による信用保証が必要のため無保証ではありませんが、利息が1%未満と非常に低いことが最大の魅力です。ただし、融資条件が厳しく、審査期間も非常に長いことがほとんどです。また、飲食店が融資を受ける場合、「営業許可書が発行されることを条件」に融資が行われるケースがあるようです。営業許可書が発行されてから融資を受けるようでは、その時点で開業準備が大方完了している状況のため、開業準備金には使えません。したがって、この融資をメインに考えると、開業そのものが頓挫する可能性もあります。
しかし、運転資金を融資してもらうつもりでいるのなら、問題は無いでしょう。いずれにしても、信用保証協会からの融資は非常に時間がかかるので、余裕を持って申請することが求められます。
融資審査の手順
実際に融資を受ける場合、どのような手順で審査が進んでいくのかを、日本政策金融公庫の融資を例に見ていきましょう。
1. 日本政策金融公庫に相談に行く
融資制度や申込み手続きについて詳しく知るために、まずは「事業資金相談ダイヤル」に電話するか、お住まいの地域にある日本政策金融公庫の支店窓口に相談をしに行きます。電話でも窓口でも、担当者が融資までの流れを詳しく教えてくれます。しかし、窓口での相談ならば、事前に創業計画書を持参すれば、より詳細な相談に応えてくれるでしょう。日本政策金融公庫への相談が融資へのスタートなので、疑問点はすべて確認しましょう。また、帰宅後気になる点があれば、後日メールでも質問することができます。
2. 融資の申し込みをする
以下の必要書類が用意できたら、融資の申し込みをします。
- 借入申込書
- 創業計画書
- 内装や設備、什器の見積書
- 担保が必要な場合はその物件の登記簿謄本または履歴事項全部証明書
3. 融資の面接を受ける
申し込み後、日本政策金融公庫の担当者との面接があります。提出した創業計画書を元に、飲食店を開業する動機やその店のセールスポイント、自己資金の額、売上の見通しなどが聞かれます。日本政策金融公庫は国の金融機関ですが、お金を貸す以上はきちんと返せるかを判断するのは当然ですから、上記を確認するわけです。したがって、面談であいまいな回答しかできないと、審査は落ちるでしょう。かといって、根拠のない夢物語を語っても、常識的にあり得なければやはり融資は通りません。ですから、根拠のある開業計画書を自分でしっかり考え、作成することが重要です。
この際に必要な資料は以下の通りです。
- 現在の仕事の給料明細または源泉徴収票
- 内外装の工事費などの見積書
- 自己資金が確認できる預金通帳(最近6か月分の公共料金などが落ちている通帳でOK)
- 開業のために使った資金の領収書
- 店舗の賃貸借契約書(または予約契約書)、あるいは物件の説明書
- 最近6ヶ月の自宅の家賃の領収書
- 営業許可書、認可証、資格または免許を証明するもの
- 身分証明書(運転免許証、パスポート、健康保険証など)
- 印鑑証明書(法人のもの)
4. 融資が決定する
面接の結果をもとに審査が行われ、融資が決定すると、借用証書など契約に必要な書類が届きます。届いた書類に必要事項を記入し、日本政策金融公庫に郵送、または持参することで融資の手続きは完了です。無事に契約が締結されれば、融資が自分の金融機関の口座に振り込まれます。融資の申し込みから着金までに、だいたい1ヶ月~2ヶ月程度かかることを覚えておきましょう。
5. 返済していく
返済は原則的に月賦払いとなります。元金返済はせず、金利のみの返済ができる「据置期間」の設定がない場合は、翌月から返済が始まります。返済方法には、「元金均等返済」、「元利均等返済」、「ステップ(段階)返済」の三種類がありますので、自分にあった返済方法を選ぶようにしましょう。
融資審査を通すためのコツ
「成功する確率がある程度高い」飲食店を開業するのであれば、融資の審査はおそらく通るでしょう。しかし、審査は機械がするのではなく人間がしますから、書類や面接の印象によっては、通るべきものが通らない場合もあります。逆に言えば、ギリギリ通らないかもしれない案件でも、うまく資料を用意し、しっかりと質問に答えられれば、融資審査に通る可能性が数段高まるということです。以下では、融資審査を通すコツをご紹介します。
通すための鉄則とは
大前提として、以下に挙げるすべての項目に自分が該当していないと、金融機関の融資はおそらく通らないでしょう。飲食店の開業を考えているのであれば、以下の全てを満たすようにすることが大切です。
- 過去ほぼ5年以内に破産などの債務整理をしていない
- 過去に消費者金融等の利用がない
- 水道光熱費などの滞納がない
- 税金の滞納がない(自己管理能力が問われる)
- 家賃の滞納や遅れがない(同上)
- 自己の貯金が100万円以上ある(コツコツ努力をするタイプか判断される)
- 自己の貯金と親族などからの支援金の合計が300万円以上ある(連帯保証制度がないため、金銭的に支援してくれる人物の有無を確認される)
- 自己の貯金と支援金で不動産関係費用に足りない取得費を賄える
創業計画書、事業計画書を明確に書く
2つめのコツは、創業計画書を「内容の納得性が高く、一定の期間後には軌道に乗ることがわかる」ように作成することです。創業計画書は、自分の飲食店をPRするプレゼンテーション資料ですから、相手に「このお店は成功しそうだな」と資料から思ってもらわなければ融資は通りません。作成上のコツは、下記記事を参考にしてみて下さい。
創業計画書の書き方!日本政策金融公庫の融資審査を高確率で通す方法
【飲食店向け】事業計画書の書き方とは?フォーマットを参考に事業計画書を作ろう!
まとめ
いかがでしょうか?
お金を借りるということは、心理的な負担になります。しかし、融資審査を受けてお金を借り入れることは、飲食店を開業する上で大切なことです。なぜなら、資金繰りの見通しが甘かったために、運転資金がショートして閉店に追い込まれたら非常に残念なことだからです。もちろん、資金を借り過ぎると利息の負担が大きくなるので、返済は大変になります。そこで、毎月必要な現金の6ヶ月分ということを目処に融資を受ければ、飲食店開業を成功させるうえでの重要なポイントとなるでしょう。
本当に融資が必要なのかどうか、自己資金を参考によく検討したあとに申し込むことで、心理的にも金銭的にも余裕をもって飲食店開業ができるでしょう。
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