
「飲食店の原価率は何%がいい? 粗利・客単価…売上を上げるために知っておきたいこと」では、粗利、原価、販管費などの用語の説明から、粗利額を増やす方法を紹介しました。しかしそこでは粗利額が多いからといって儲かっているのか?については言及しませんでした。
お店が儲かっている・いないの基準は何で判断されるのでしょうか?よく使われるのが、損益分岐点という指標です。今回はその損益分岐点の概要と、簡単な計算方法、そして解釈の仕方を説明します。

損益分岐点とは?

損益分岐点を抑えておく理由

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損益分岐点の簡単な計算方法

損益分岐点 = 固定費 ÷ ( 1 - 変動費 / 売上高 )
ここで、固定費とは売上に関わらずかかる費用のことで、変動費は売上と連動する費用のことです。各費用の代表的なものは以下になります。
固定費用:人件費、家賃、水道光熱費
変動費用:原材料費、仕入れ値
この分類にやや違和感を覚える人もいるかと思います。会計上、水道光熱費や人件費は変動費です。しかし売上が大きく変動したからといってそれに合わせて柔軟に人件費と水道光熱費を変えるのは難しいです。よってここでは固定費=経費、変動費=原材料費というようにザックリ分類します。こちらのほうが、より実態に即していると考えるからです。
さて、損益分岐点の計算式をあげましたが、これを計算して整理します。分数の引き算をするには分母を統一する必要があるので、
1 = 売上高 / 売上高
として、分数の割り算は分母分子をひっくり返して掛け算であることを思い出して計算すると
損益分岐点 = 固定費 × 売上高 / ( 売上高 - 変動費 )
となります。変動費=原価であると考えれば、
損益分岐点 = 固定費 × ( 売上高 / 粗利額 )
となり、粗利額÷売上高=粗利率とすれば
損益分岐点 = 固定費 / 粗利率
と計算式を大幅に簡単化できます。粗利率は原価率の裏返しで、たとえば原価率が40%であれば粗利率は100%-40%=60%となります。固定費(ここでは経費)が240万円だとしたら損益分岐点は240(万円)÷0.6=400(万円)です。
もちろん、固定費の定義をやや変更したため100%正確な数字にはなりませんが、ある程度あたりをつけるにはこれで十分でしょう。
損益分岐点の活用方法は、ひと月あたりあるいは一日あたりの売上目標を決めるのに使うのはもちろん、客数や注文数から顧客単価の目標設定に反映します。固定費を設定することで、人件費として社員数や給与を検討する際にも使います。人を増やせばそれだけ必要となる売上が決まってきます。
損益分岐点から見る経営のコツ

固定費、変動費について

固定費、変動費って?利益を上げるためのコストコントロールのコツ固定費が大きければそれだけ損益分岐点も大きくなります。これは、固定費を払うためにそれだけの粗利額が必要となるからです。それでは、固定費はどのタイミングで決まるのでしょうか? 実は開業時にお店の家賃・広さによって配置するスタッフの人数(=人件費)、水道光熱費はある程度決定します。よって、出店場所は慎重に選ぶ必要があります。 また上記では、人件費を固定費として定義していますが、正社員(経営者含む)は固定費として、アルバイト(パートも)は変動費として計算しましょう。アルバイトの出勤シフトは、本人に任せず、シフトを細かくコントロールしてください。前月比、前年同月比、平日か休日か休前日かなどを考慮して、出勤してもらう日、時間を指定するようにすることで、売上に応じた変動費として扱うことができます。
飲食店の立地条件の調査方法 | 立地マーケティングで抑えるべきポイント原価のコントロールも重要で、計算式から粗利率が上がれば(原価が下がれば)損益分岐点は小さくなります。原材料費の高騰に注意して、特に日々発注するものについては仕入れを見直すようにしてください。料理の味の質を落とすことはできないので、メニューを工夫する努力をします。場合によっては価格に反映させてお客様の理解を得ていく必要もあるでしょう。
損益分岐点比率を活用しよう

損益分岐点比率 = 損益分岐点額 / 売上高 × 100 (%)
損益分岐点が400万円、売上高が1000万円とすると、
損益分岐点比率 = 400 / 1000 × 100 (%) = 40%
となります。
損益分岐点比率とは、実際の売上高と損益分岐点の売上高の比率のことです。損益分岐点比率の値が低いほど売上高が低くなっても赤字への耐性があることがわかります。損益分岐点比率が80%以下だと経営状態は健全であり、収益力が高い優良店だといえます。一方、損益分岐点比率が90%以上だと、少しでも売上が落ちると直ぐに赤字に陥ります。損益分岐点比率が100%を超えると危険水域であり、この状態が続くと飲食店の経営を続けるのが難しくなります。
比率が低いほど(実際の売上に対して赤字にならない売上が少ないほど)収益性は高いです。同時に、この例の場合売上が60%(600万円)減少しても赤字にならないことを示します。飲食店であれば、この比率が80%以下(つまり20%以上の売上減で赤字)となれば計画が立てやすくなるでしょう。日本の多くの飲食店の現状は95%前後のところが損益分岐点比率としてあるようですが、売上げの5%の増減は珍しいことではありません。経営に成功している企業は概ね80%以下をキープしています。通常30日の営業日が1週間程度営業ができない状態になっても経営にダメージを与えない状況が理想です。5%だと1.5日となります。台風や大雪など外的要因で1日営業ができないことを想定すると非常に危険な数値となります。
売上高を増やすには、来客数を増やすか、客単価を上げるしかありません。値上げをすると客単価が上がりますが、来客数の低下を招く恐れがあります。値上げは最後の手段にするべきであり、来客数を増やすための工夫をすることが先決です。
日頃の改善から経営の安定化を
