接客用語は接客業を営む上で、知っておくべきことの一つです。この記事をお読みの飲食店の店長や経営者の方は、自分の店でのスタッフが使う接客用語について何かガイドラインなど持っているでしょうか。それがなくてもうちは十分に繁盛している、ということであれば問題ないのですが、そうでなければ、店の人間全員で接客用語をもう1度マスターし直すことが必要かもしれません。
ここではなぜ接客用語を身につけなければならないのか、そして具体的にはどういう内容をマスターしたらいいのかご説明します。
なぜ接客用語を覚える必要があるのか
大前提は、お客様との関係性をどう考えるか
飲食店の店長や経営者の方の中には、接客用語をある種軽視している方がいます。そういう方にはまず大前提として、お客様は自店舗とどういう関係性を求めているのか、ということから考えていただきたいと思います。
どのような親しい常連客でも、基本的に「自分を大切な存在だと扱ってもらいたい」という心理と「店から特別に扱われたい」という心理を持っています。このうちの後者の心理を「超・個人店」の場合は店長や経営者、あるいはスタッフが、自分も「個人」、お客様も「個人」という「人間同士」の関係に置き換えて、まるで「友人同士のように」接することで満足させています。そのようなケースで、例えばホテルのフロントで利用されているような丁寧な敬語で接客することは、むしろ逆効果かもしれません。
しかし、それを表面的にとらえて「お客様とはフレンドリーに接したほうがいい」と考え、自分もお客様に丁寧語で話さないし、スタッフにも接客用語を訓練しない、ということになるとそれは違います。特に一般のお客様の場合、店の人間とお客様との関係性は、「個人」ではなく「店の人間」という一種の「役割」と、「個人」ではなく「来店客」という「役割」とのそれであって「友人同士」の関係性ではありません。またお客様もそのような関係性は求めていません。
にもかかわらず、表面だけ「友人同士」のように接してしまうと、お客様は「自分は特別な存在」だと扱われているとは思わずに、「この店はなれなれしい。客に対して横柄」と不快感を与えてしまい、非常に大きな不満やクレームの原因になってしまうのです。
つまり、接客用語を覚える必要があるかどうかは、自店舗での、店の人間とお客様との関係性、あるいは距離感がどの程度のものなのかということをしっかり把握することが大切なのです。
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歓迎の気持ち、お客様を大切にする気持ちを伝える
そのうち、やはり大多数の飲食店での、店側とお客様との関係性は、友人同士ではなく「店の人間」対「来店客」です。そしてその関係性の中で、お客様の「自分を大切な存在だと扱ってもらいたい」と「店から特別に扱われたい」という心理を満足させる必要があります。
しかし、それはいくら店側が「心の中で」お客様を大切だと思っていても、態度に現さなければお客様には全く伝わりません。ですので、その「伝える方法」として「接客用語」を使うことで敬意を表し、「あなたを大切にしている」というメッセージを伝え、満足感を得てもらうのです。接客用語を理解し、覚え、使う最大の目的とメリットはそこにあります。
個人個人に任せると、日本語力に左右される
とはいえほとんどの店、あるいはスタッフは接客用語の教育があろうとなかろうと、習慣からお客様には意識的に丁寧な言葉遣いで接しようとします。しかし接客用語の間違いのほとんどは、「丁寧な言葉遣い」の知識や原則を中途半端に理解した状態で「とりあえず丁寧に話せばいいだろう」と接客しようとしたときに発生するのです。担当したスタッフが正しい「日本語力」を持っていない場合は、ほぼ確実に「変な敬語」を使ってしまい、その結果、お客様から不審がられたり、不満に思われたり、さらには店のグレードのレベルまで見透かされてしまいます。
つまり、個人の日本語力に左右されないで自然に接客用語が出るレベルまで、まるで英語の例文を覚えるように訓練することが重要なのです
統一しておくほうが教育もマネジメントもしやすい
また各スタッフ全員の日本語力が高く、放っておいても正しい接客用語を使っていたとしても、店としてのスタンダードの接客用語を決めておき研修を行った方がベターです。というのは、仮にそこに新人が入ってきて先輩の接客シーンを見て学ぼうとしたときに、スタッフによって違う言い回しを使っていたらどれが正しいのか新人には判断がつきません。つまり「見て学ぶ」ことができません。
また、店長が新メニューを導入し、それをテーブルでスタッフがお客さまにおすすめする販売促進を打とうとした場合、推奨トークを開発して使わせる必要があります。しかしその場合に各人の使っている接客用語が異なっていたら、自己流の接客用語のうちどれを標準にするかのすり合わせから検討が始まるので、全員が等しくそのトークを言えるようにするためには非常に時間がかかってしまいます。
これらの理由から、やはり店として統一した接客用語を作り、各スタッフがそれを理解し、使った方が効率的であり、結果店のサービスレベルも向上しやすいのです。
店舗営業中に想定される基本的なことから、お客様に何かお断りが必要なシーン、クレームの謝罪シーンなどイレギュラーなことも含め、接客シーンを想定した接客用語のマニュアルを作っておくと良いでしょう。
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お客様に対する接客用語~敬語編~
では、主な接客用語にはそのようなものがあるのでしょうか。その基本と原則について説明します。
8大基本用語
まず接客のどのシチュエーションでも使うものが「8大接客用語」です。これについては店長も含めた全スタッフが、何も考えずに自然に口から出てくるくらい練習をしましょう。
「いらっしゃいませ」
ご来店時の声かけですが、暗い声で言ったのではせっかくの「歓迎」や「おもてなし」の気持ちが伝わりません。イメージとしては、ドレミファの「ラ」の音階で声を出すようにしましょう。
「お待たせいたしました」
店側、スタッフ側としては通常の提供時間、依頼に対する通常のタイムラグだと思っていても、お客様は待ちわびている可能性が高いです。ですので、料理でも頼まれたものでも、とにかくお客様に何かを届ける時には必ずこの言葉を最初に使いましょう。
「かしこまりました」
日常会話であれば「わかりました」ですが、それではお客様にとって対等な言い方になってしまいますので、このように謙譲語で「理解しました。そのようにします」ということを伝えましょう。「承知しました」という言い方もありますが、接客の場面では「かしこまりました」の方が良いでしょう。依頼されたりしたときに、何も言わずに去ってしまうとお客様は不安に思い、そして自分を不安にさせる店側に対し、不満を覚えるようになります。
「少々お待ちください」
これも依頼を受けその場を去る前、電話対応時に保留にする場合に必ず使うようにしましょう。もちろんお客様を待たせないほうがいいわけですが、この言葉によって、多少お客様の「待ちわび感」が緩和されます。言い切るのではなく「少々お待ちいただいてよろしいでしょうか?」とお願いするように語尾を疑問形にすることで、より柔らかく丁寧な印象を抱きやすくなります。状況に合わせて使い分けてみましょう。
「申し訳ございません」
これも普段の日常会話であれば「すみません」ですが、その言葉ではお客様と対等になってしまいますし、謝罪の気持ちが伝わりません。特にこれはこちらに非があってお詫びをする時の言葉ですから、必要以上に謙譲するためにこの言葉を使いましょう。
「恐れ入ります」
これも日常会話では相手が何かしてくれた時に「すみません」「ありがとうございます」と言っている言葉ですが、「接客」という完全な上下関係の中で使う言葉としては謙譲度が足りません。ですので、「恐れ入ります」という、日常ではあまり使わない言葉もしっかりと身につけましょう。またこの言葉を使えるようになっていると、逆にお客様に何かを頼んだりする時にも「お手数をおかけしてしまい恐れ入りますが」という「クッション言葉」をスムーズに使えるようになります。
「ありがとうございました」
店の中でお客様に感謝の気持ちを伝える時には現在形の「ありがとうございます」ですが、これは普通の暮らし方をしているスタッフであれば日常会話の延長で自然に使えます。しかしこの「過去形」の方は、お客様がお帰りになる時に使う言葉なので、これもドレミファの「ラ」の音階で、目いっぱいの感謝の気持ちが伝わるようにしましょう。
「失礼いたします」
これも接客では非常に高い頻度で使う言葉です。料理をキャリーしてテーブルに届けた時、通路にいるお客様をよけて通る時などどこでもあいさつ代わりに使うほど必要で汎用性がありますのでこれも癖になるようにしましょう。
基本的な敬語の3つのルール
また、お客様にとって1番変だと感じるものは、敬語の使い方が不適切な場合、いわゆる「バイト敬語」です。丁寧すぎると二重敬語になってしまったりと気をつけなくてはいけないポイントがたくさんあります。1つ1つの例で覚えるのは場面や種類が多すぎますので、まず以下の基本的なルールを理解しましょう。
1:お客様には尊敬語、自分は謙譲語、全体としては丁寧語
言葉にはすべて、相手を目上として扱う言い方としての尊敬語、自分をへり下させる謙譲語があります。ですので、お客様が主語になる言葉は尊敬語を使い、自分が主語になる言葉は謙譲語にするのが大原則です。たとえば以下のような用法です。
×メニューを拝見してください
拝見は「相手を拝んで見る」ことですから謙譲語です。メニューを見るのはお客様側の動作ですからふさわしくありません。正しくは、
○メニューをご覧ください
です。動詞に「お」「ご」を付けるのが1番簡単な尊敬語です。 さらに、使う言葉すべてを「丁寧語」にすると店のグレード感が高まります。たとえば、上の表現が
◎メニューをご覧くださいませ
になります。これはすぐには使いこなせませんが、使えるように努力しましょう。
2:店内の上下関係よりもお客様の方がさらに上
また、誰がその場面での「主人公」なのかによって「目上の人間がすることは尊敬語」「目下の人間がすることは謙譲語」というルールが適用される対象は変わります。たとえば、店長と従業員、あるいは従業員同士で話している場面では、「主人公」で目上の人間は店長になりますので、
○「店長がいらっしゃる時には」
が正解です。しかし、これがスタッフとお客様が話している場面では「主人公」はお客様になるので
×「すぐに店長がいらっしゃいます」
は不正解です。従業員にとっては目上の店長でも、お客様から見たら目下ですから、正しくは、
○「すぐに上の者が参ります」
と「来る」の謙譲語の「参る」を使います。
3:本来の意味が対等な言葉は使わない
これは1と2よりさらに難しくなりますが、その言葉の元の意味が「対等の関係の時に使う」ものの場合は、それを謙譲語にも、尊敬語にもしません。1番よく使ってしまうのは「了解」という言葉です。了解とは「相手の事情が分かって、納得すること」の意味なので、対等の時にのみ使う言葉です。ですので、
×了解いたしました
といくら謙譲語の「いたしました」を付けても、謙譲語にはなりません。この言葉の代わりに、
○かしこまりました
と、8大台用語を使うように、これも癖を付けましょう。
よく使う敬語の言い換えワード
以上のルールに沿って、接客中によく使う敬語の言い回しを紹介します。以下の左側の言葉は日常会話用語で接客の場面ではふさわしくありません。日常の中でよく使うフレーズであっても、お客様に対して使う時には、右の言葉に言い換えましょう。
男の人、女の人 → 男性の方、女性の方
お客、お客さん → お客様
年取った人 → ご年配の方
子供 → お子様
旦那さん、奥さん → 旦那様、奥様
一人 → おひとり様
一緒の人 → お連れ様
僕、わたし、自分 → わたくし
我々、私たち → わたくしども、当店
注文は決まりましたか → ご注文はお決まりでいらっしゃいますか
ちょっと待ってください → 少々お待ちくださいませ
ご用件は何でしょうか?→ご用件をお伺いします
お待ちどうさま → お待たせいたしました
今持っていきます → ただ今お持ちいたします
ごめんなさい、すみません → 申し訳ございません、失礼いたしました、恐れ入ります
いくつですか/何人ですか → いくつになさいますか/何名様でしょうか
案内します → ご案内いたします
名前を書いてください → お名前をご記入ください
この席でよいですか → こちらの席でよろしいでしょうか
お座りください→おかけください
今満席です → ただ今満席でございます
トイレはまっすぐ行って右です → まっすぐ行かれて右手にございます
すぐ取り替えます → 申し訳ございません、ただいまお取替えいたします
こっちの間違いでした → 申し訳ございません。わたくしどもの手違いでした
味はどうですか → お味はいかがですか
下げてよいですか → お済みでしたらお下げしてよろしいでしょうか
そうです/そうします → さようでございます/そうさせていただきます
わかりました → かしこまりました
とんでもないです→恐縮です (お褒めの言葉や感謝の言葉をかけられた時)
知っています → 存じております
その通りです → おっしゃる通りです
誰ですか → どちらさまでしょうか
これですね → こちらでございますね
私が聞きます → 私が(かわりに)おうかがいいたします
こっちでやります → わたくしどもでいたします
できません → わたしどもではいたしかねます
お客様に対する接客用語~NGワード編~
敬語の問題ではなく、実際の接客の現場ではよく使われている以下の言い回しは、日本語として正しくないので使わないようにしましょう。この間違った言葉の使い方に敏感に反応するお客様も多くみられます。
料理提供時の「~のお客様」
たとえば、
×「お待たせいたしました。和風ハンバーグのお客様」
は意味をそのまま取れば「和風ハンバーグ=お客様」であり、おかしな日本語です。正しくは
○「お待たせいたしました。和風ハンバーグでございます。」
となります。
お客様に料理や商品など何かを渡す、提供する時の「~になります」
もう1つ料理提供時によく使われる間違った言い回しは、
×「こちらエビグラタンになります」
です。「になります」とはAがBに変化するという言葉ですから、これは運んできた料理が目の前で「エビグラタンに変身する」意味になります。正しくは、
○「こちらがエビグラタンでございます」
です。
また同じくよくこの言い回しが使われるシチュエーションは、会計時です。
×「こちら、300円のお返しになります。」
これも正しくは、
○「300円のお返しでごさいます」
となります。
会計時の「○○円からお預かりします」
この言い回しが間違っている点は2つです。1つは「から」という言い回しです。これは「いただいたお金から代金を引いてお釣りを返す」というところから来ているのでしょうが、間が省略され過ぎていてすでに意味不明なほど間違っています。
そしてもう1つは「お預かりします」です。仮にお釣りがある場合は、いったんその金額を「預かって」、そしてお釣りを「返す」ので
○「5000円お預かりします。2500円のお返しでございます」
は正しい言い回しです。しかし、ぴったりの金額でいただいた場合は「預かった」でのはありません。返す金額がないのに「預かった」という表現は間違っています。正しくは、
○「5000円(ちょうど)頂戴します」
となります。
レジ操作に注意を払いすぎると言葉づかいが疎かになってしまうので注意しましょう。
注文確認時の「~でよろしかったですか?」
お客様のオーダーを確認する時に使いがちな間違った言い回しです。
×「ご注文を繰り返します。冷やし中華、餃子、チャーハンでよろしかったでしょうか」
「よろしかった」は過去形ですから、今聞いたばかりの注文を過去形で確認するのは間違いです。
正しくは
○「ご注文を繰り返します。冷やし中華、餃子、チャーハンでよろしいでしょうか」
の現在形です。
頻繁に使われる「~のほう」
どういう経緯か判然としませんが、名詞に「ほう」をつける間違った言い回しが一部でよく使われます。
×「お料理のほうは揃いましたでしょうか」
×「デザートのほう、お待たせいたしました」
×「お会計のほう、3200円になります」
「ほう」は方角を示す言葉です。
○「お料理はすべて揃いましたでしょうか。」
○「お待たせいたしました。デザートでございます。」
○「お会計は、3200円でございます。」
が正解です。
会計時、お釣りを渡す際の「○○のお返しです」
×「1,000円とレシートのお返しです。」
○「1,000円お返しします。こちらレシートでございます。」
ついついお釣りとレシートと一緒にしてしまいがちですが、お釣りとレシートは別物ですのできちんと分けてお伝えしましょう。
接客用語と第一印象がサービス力向上のポイント
ここまで接客時の「言葉」の問題を取り上げてきましたが、心理学の「メラビアンの法則」では、人が相手から受け取る印象は「見た目」によるものが55%、「話し方」によるものが38%、「話す内容」によるものが7%だと言います。
これを接客の場面に置き換えると、いくら丁寧に「いらっしゃいませ」と言っても、それが仏頂面だったら、お客様はその店から歓迎されていると感じない、ということです。 以上述べた接客用語を本当に生かすためには、接客時に「お客様を大切にしている、歓迎している」というメッセージの表現として「笑顔で接する」や「身だしなみを整える」など目から入ってくる情報が重要なのです。
もちろん笑顔であれば、あとは間違った敬語だらけの、ざっくばらんな対等の言い方でいいということではありませんが、それらのベースとして笑顔などの見た目の印象が大切だということです。自店舗のサービス向上の最大のポイントはそこにあるということを、基本の考え方として持ちましょう。
当然そのためには、スタッフが笑顔で働けるような職場環境を整えることも重要です。
まとめ
いかがでしょうか。
飲食店の基本であるQSCの1つのS、つまりサービスは以上のような接客用語によっても支えられています。当然、サービスは、そもそもの気配りも必要ですし、振舞い方などの接客スキルや接客マナーも重要ですし、何より上で触れたように笑顔がなければ成立しません。
しかし競合店との厳しいお客様争奪戦には勝つためには、競合店では適切に正しい接客用語が使用できているかもしれませんから、自店舗もおろそかにはできません。あるいは競合店ができていなければ、それは間違いなくアドバンテージになります。
接客用語を店長も習得し、スタッフにもマスターさせ活用することが、集客力アップ、業績向上につながるのだという認識を持って自店舗の経営に取り組みましょう。
【店舗経営においてはPOSレジが欠かせない】
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