前回は、「飲食店のお金の流れ」を確認する前に、イメージしやすい「家庭のお金の流れ」のブロックパズルについて、お伝えさせて頂きました。
「家庭のお金の流れ」のブロックパズルがわかれば、「飲食店のお金の流れ」も同じようにわかります。実は、お金の構造は一緒なのです!
3回に渡ってお伝えする「お金のブロックパズル」の作成ができると、経営の勘所が分かり、自信を持って、意志決定ができるようになります。例えば、
- どんぶり経営まっしぐらで、数字や会計が苦手な方は、
- ⇒ 感覚的に下していた判断が、根拠のある判断に変わります!
- 数字をきっちりと見なきゃいけない、と考えていた方は、
- ⇒ 納得の経営判断を行うために、正確さや細かいことにとらわれず、大局を見るコツが分かります!
- 会計事務所の担当者に、決算書や試算表の説明を受けてもよく分からない方は、
- ⇒ たった1枚の図を描くだけで、自分のビジネスのお金の構造がすぐに分かり、「儲けの仕組み」がつかめるようになります!
- ⇒ 「いかに利益をあげるか」を、自分で考えられるようになり、「お金が残る」ようになります!
さぁ、準備は良いですか? 第2回目は、飲食店にフォーカスした「お金のブロックパズル」を学び、「儲けの仕組み」を手に入れましょう!
1. お金の流れをつかみ「お金が残る」2つのポイントとは?
飲食店において、お金がどのように入って、どのように出て行き、どれだけ残るのか。 その「お金の流れ」について、意外と知らない方が多い印象です。お金の入りと出のバランスを考えられず、「なんとなくお金が残った」、「忙しいのになぜかお金が足りない」などの状態である「どんぶり経営」が、ほとんどです。
また、売上の話、スタッフの給与・労務の話、銀行借り入れの話、食材などの仕入れコスト削減の話、というように、それぞれの話を個別にとらえて、分断されたかたちで議論をしていることが多いのも原因のひとつでしょう。たとえば、
- やる気を出してもらうために、コンサルタントを採用して、立派な賃金体系を導入した!
- 新しい賃金体系が機能する売上規模や利益は、どの位が適切か検討していなかった?
- 分厚い賃金マニュアルは、本棚の奥にそれは厳かに、人知れず埃を被って永久の眠りに……。
なんてことが、経営あるあるネタの鉄板です。
「お金の流れ」をつかみ、「お金が残る」には、2つの重要なポイントがあります。
- お金の流れの全体像を「目に見える絵」でイメージする。
- お金が入ったり、出たりする「つながりとバランス」を確認する。
これだけです、難しそうですか? 前回もお話ししましたが、正確さや細かいこと、は気にする必要はありません。逆に、大事な根幹が分からなくなってしまいます。
これから説明する図は、西順一郎先生が「戦略会計STRACⅡ」(ソーテック社)で紹介されたSTRAC表(現・MQ会計表)をもとに、お金の流れの全体をわかりやすく図にしたものです。大事な図なので、ぜひ、自分でも描けるようになってください。
この図を描くだけで、数字が苦手な方でも、自分のビジネスのお金の構造がすぐに分かり、「儲けの仕組み」がつかめるようになります。つまり、「いかに利益をあげるか」を、自分で考えられるようになり、「お金が残る」ように変わっていきます。
2. お金のブロックパズル(飲食店のお金の流れ/会計)
これから7つのブロックからなる「お金のブロックパズル」を、ご紹介します。 前回お伝えした「家庭のお金の流れ」と一緒です。忘れてしまった方、まだ確認されていない方は、ぜひ前回分を、後でチェックしてください。
「飲食店のもうけのしくみ」がわかる「お金のブロックパズル作成シート」を手元において一緒にみていきましょう!
① 売上高
飲食店オーナーの加藤さんは、よく「なぜか毎月お金が貯まらない」と言っています。1ヵ月のお金の使い方を一枚の「図」、「お金のブロックパズル」で考えてみると、その理由がわかります。図にしてみるとどんな感じでお金が動くのか、イメージがわきます。
加藤さんのお店は、毎月100万円程度の売上がありました。
② 変動費
それから、「変動費」です。読んだ字のごとく、売上高に比例して、増えたり減ったり変動する費用です。
つまり、売上高が2倍になれば変動費も2倍になり、逆に、売上高が半分になれば、変動費も半分になります。スーパーなら商品の仕入れ、工場なら材料、タクシーならガソリンなどが該当します。
③ 粗利益
売上高から、変動費を差し引いた残りは、「粗利益」といいます。実は、「粗利益」は「売上高」より、すごく重要です。100万円の売上高があっても、変動費30万円は、外に出て行ってしまい、実際に手元に残る「粗利益」は70万円になるからです。
また、売上高に対する粗利益の割合を、「粗利率」といいます。
つまり、加藤さんのお店では、毎月100万円の売上高で、粗利益70万円が手元に残る商売(粗利率70%)を行っているのです。
④ 固定費
次に、粗利益を「固定費」と「利益」に分けます。「固定費」は、先ほど説明した「変動費」と反対の性質があります。「売上高」の増減に関係なく、毎月発生するのが「固定費」です。具体的に固定費には、家賃やスタッフの給与などが該当します。
粗利益がないと、その先の固定費をまかなえず、利益も残せません。月に70万円以上使ったら「赤字」になります。
⑤ 人件費・労働分配率
固定費は、大きく2つに分けて考えましょう。「人件費」と「その他」です。人件費には、社長の生活費も含めて考えます。多くの場合、固定費の半分は、人件費になります。通常、個人事業主の給料は人件費に含まず、残った「利益」に含めて表示されますが、ここでは決算書のルールは忘れてください。仮に、人件費を40にすると、利益がゼロとなり、赤字目前になるため、バランスが大事です。
ここで、人件費について、重要な指標があります。「労働分配率」といい、粗利益を、労働の対価である人件費にどれだけ分配しているかを示す指標です。
この図では、粗利益70に対して、人件費30であり、労働分配率が約43%になっています。この比率が低ければ低いほど、飲食店としては生産性が高い(少ない人件費でより多くの粗利益を出している)ということになります。
また、ここで注目してほしいのが、第1回目でご説明した鈴木店長の収入(給料)とお店の人件費が繋がることです。 もっとイイ暮らしがしたい、もっと遊ぶためには、生活費を上げる必要があります。あわよくば貯金も増やしたい。そのためには、手取りを増やす必要があります。手取りを増やすためには、収入(給料)が増える必要があります。その収入の源は、お店の人件費に繋がっていきます。
⑥ 利益
次に、粗利益から「固定費」を引いたものを、一般的に「利益」と言います。粗利益70から固定費60を差引くと利益10が残ります。
そんな中、加藤オーナーのお店で働く鈴木店長は、「利益をたくさん出しても、結局オーナーの懐が温かくなるだけでしょう?」という発言があったとか……。 飲食店のお金の流れについて教わったことがないので、鈴木店長のように、こんな勘違いをしているスタッフは少なくないようです。婚活中の鈴木店長のために、少しでも還元してあげたい!今回は頑張ってくれたから、利益10は、全部ボーナスであげてもイイ!と考える方もいるかもしれません。一方、「飲食店を継続していくためには、利益は残さなきゃダメ!」という声もあるでしょう。
それでは、なぜ、利益が必要なのでしょうか? 実は、利益が全部、加藤オーナーの飲食店に残るわけじゃないのです。利益から、さらに出ていくお金があります。
⑦ 税金
ここまで見てきた図では、売上高から変動費や固定費を差し引いて、利益10が残りました。この利益は、全て加藤オーナーのお財布に入るのでしょうか?
お分かりの方も多いと思いますが、利益が出れば税金がかかります!ここでは簡易的に税率40%として、10のうち4を税金とします。税引き後の利益が6となります。
⑧ 減価償却の繰り戻し
ここだけ、少し難しい話をします。税引後利益が6となっていますが、現金ベースでいうと、もう少しお金が残っています。 これは、「減価償却の繰り戻し」と言いますが、「固定費・その他」の中には、設備投資をした際に発生する「減価償却費」という費用があります。
実は、お金の支出を伴わない費用なので、現金の流れをみる場合は、「固定費・その他」に計上していた「減価償却費」を繰り戻して税引後利益に加える必要があるのです。
※ 減価償却の詳しい話については、割愛させていただきます。
⑨ 最後に残るお金
どこの飲食店も、店舗の内装や設備のために、借金をして開業しています。そのため、税引後利益から「借金の返済」があります。また、壊れたイスを新しくするために「設備投資」を行い、残ったお金が、次に繰り越せます。
そのため、「減価償却費の繰り戻し2」と「税引後利益6」を足した「お金8」から、「返済5」や「設備投資2」を差し引いた残りの1が、最後に残ったお金(加藤オーナーの手元に残るお金)になります。
自分のお金のブロックパズル(飲食店のお金の流れ/会計)を作ってみよう!
自分の店舗(会社)について、何が入って、何につかっているのか。下記シートをダウンロードして確認してみましょう。
3. 今回のポイント
いかがでしたでしょうか? こうやって図にして見ると、飲食店の中でお金がどう流れているか、一目でよくわかったのではないでしょうか。100万円の売上は、最終的に、たったの1万円しか残らないのです。決して、飲食店の加藤オーナーは、自分の懐を温めているのではありません。鈴木店長の給与も考え、飲食店が安定的に回るように、やり繰りしているのがお分かり頂けたと思います。
「支出」と、ひとくくりにしていたものを「変動費」と「固定費」に分け、さらに、「固定費」を「人件費」と「その他の固定費」に分けました。さらに、「税金」や「返済」など、経費ではない支出もありました。このように目的ごとに区別することで、具体的にお金の使い方について対策を立てることができ、事前に予算も組みやすくなります。
飲食店のブロックパズルの要点は、
- 「粗利益」と「固定費」のバランスを考えることが大切です。
※「粗利益」があっても、固定費が大きく、全く利益が残らない飲食店もあります。 - 飲食店の粗利率(売上に対する粗利益の割合)、労働分配率(粗利益に対する人件費の割合)がどうなっているのか、まずは確認しましょう。
- 利益の先にも使うお金がある(税金、借金返済など)
ここまでに、お金の流れの全体像を、第1回「家庭のお金の流れ」、第2回「飲食店のお金の流れ」を通して学んでいただきました。 第3回では、根拠ある意思決定をするために、飲食店の「粗利率」にフォーカスしていきます。実は、多くの飲食店オーナーは、経験や勘で、「値上げや値下げ」の額を決めているのです。
既に学んだ「お金のブロックパズル」を使いながら、クイズ形式でお伝えさせて頂きます。このコツを手に入れれば、「儲けの仕組み」が、手に入ります。 お楽しみに!
- 和仁達也「超★ドンブリ経営のすすめ」(ダイヤモンド社)
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この記事の著者
大崎泰寛1979年生まれ。経営者のビジョンとお金の両立を実現させる専門家。 一般社団法人日本キャッシュフローコーチ協会、認定キャッシュフローコーチ。 税理士法人、海外法人を経て起業。「お金の流れ」と「経営の勘所」が、 ”簿記の知識ゼロ”でも分かるたった1枚の図で、全部署の社員が自ら進んで利益を生み出す、”お金が残る”体制の構築をサポートしている。 キャッシュフローコーチ 大崎泰寛 |