飲食店を新規に開業するために建物の賃貸借契約を結ぶ場合、家主から火災保険に加入する条件が提示され、多くの場合保険会社も指定されることがあります。契約の際、賃貸借契約書はしっかり読んでも、火災保険の約款までしっかり読む人はなかなか少ないのが実態でしょう。したがって、自分の加入した火災保険が、どこまでをカバーしてくれているのか理解していない場合も多いのではないでしょうか。火災保険の保険料もコストですし、何よりもしもの時にどこまで補償があるのか知らないと、思わぬ損をすることもあります。
そこで今回は、火災保険に加入する理由や、飲食店が火災保険を選ぶときのポイントをご紹介します。
飲食店が火災保険に加入する理由
そもそも、なぜ飲食店は火災保険に加入することを求められるのでしょうか。また、加入によってどのようなリスクを回避できるのでしょうか。具体的には以下のような事例が挙げられます。
財産に関するリスク
以下に挙げる要因によって、店舗の財産である内装、設備、備品類が使えなくなるリスクです。
- 火災による焼失
- 水漏れによる汚損
- 盗難
損害賠償に関するリスク
損害賠償に関するリスクとは、食中毒による健康被害を起こしたり、料理をこぼしてお客様の衣服を汚してしまうなど、店舗の過失によってお客様に損害を与えてしまうことです。特に食中毒の場合は、治療費だけではなく、慰謝料や被害者の休業補償といった損害賠償責任まで発生します。
休業リスク
休業リスクとは、火災や水漏れで設備が使用不可になったり、食中毒や未成年への飲酒許容などによって、保健所などから営業停止処分が下され、休業しなければならなくなった場合のことを指します。休業中も家賃は発生しますし、休業期間中も従業員に給与を払い続ける必要があるので、店舗経営にとっては手痛い出費となります。
飲食店が入るべき3つの火災保険
飲食店で起こりうる各種リスクを回避するために、飲食店はどのような火災保険に入るべきなのでしょうか。代表的な保険は、主に以下の3つです。
- 火災保険
自分自身の所有する財産の損害を補償してくれる損害賠償保険です。 - 借家人賠償責任保険
焼肉や中華料理など、強い火力で調理する重飲食と呼ばれる飲食店は、火災などを起こすリスクを多く抱えています。万が一火災などを起こしてしまった場合、自分の財産が失われるだけではなく、家主の持ち物である建物にまで損害を与えてしまいます。借家人賠償責任保険に加入していれば、火事による損失を補償してくれます。ただし、借家人賠償責任保険は火災保険のオプションですので、まずは何らかの火災保険に入ることが必要です。 - 施設賠償責任保険
飲食店を経営していると、自分でも大家でもなく、全くの第3者によって損害を与えられる場合があります。例えば、店の袖看板のねじが緩んでいたために落下し、通行人にあたってけがをさせた場合などが当てはまります。軽いけがなら不幸中の幸いですが、入院が必要になったり、後遺症が残るようなけがになってしまった場合ですと、損害賠償の金額は到底個人経営の飲食店では負担しきれない額となります。以上のような事例によって発生する損害賠償額を補償してくれるのが、施設賠償責任保険なのです。
また、水漏れをして階下の店舗に損害を与えてしまった場合や、自転車で配達中、子供に衝突してケガをさせてしまった場合、料理をサーブする時にお客様の衣服を汚してしまった場合なども、施設賠償責任保険によってカバーすることができます。
火災保険料ってどのくらい?
火災保険の重要性がわかったところで、気になるのは保険料でしょう。仮に1億円の保険に入って高額な保険料を支払っても、実際に補償されるのは実額です。そのため、必要な補償額を想定し、それに合った保険料を支払うことが、無駄なコストを支出しないで済むポイントです。保険金額は、保険会社によって多少差が出ますから、最終的には相見積もりを摂って検討することをおすすめします。しかし、大体の相場観を持っておくにこしたことはありませんから、以下で一般的な保険金額のレベルをご紹介します。
10坪の居抜き店舗
火災保険100万円、借家人賠償責任保険1,500万円、施設賠償責任1億円に2年契約で加入した場合、合計金額は以下のようになります。
- 木造の場合:3万9,000円
- 鉄骨造の場合:2万6,000円
- コンクリート造の場合:2万円
10坪のスケルトン新設店舗
火災保険500万円、借家人賠償責任保険1,500万円、施設賠償責任1億円に2年契約で加入した場合、合計金額は以下のようになります。
- 木造の場合:7万4,000円
- 鉄骨造の場合:4万6,000円
- コンクリート造の場合:3万3,000円
火災保険を選ぶポイント
世の中には、たくさんの保険会社からさまざまな火災保険が販売されています。数多くの保険の中から、一体どのような基準で店舗に最適なものを選べばよいのでしょうか。
店舗の構造を知る
火災保険は、その建物の構造によって保険料の料率も、かけられる保険料の上限も変わります。具体的には、コンクリート造りなどのM構造、鉄骨造りのT構造、木造のH構造です。最初に店舗の構造を知ったうえで、見積もりを取ることが第1歩です。
補償範囲を決める
火災保険は、単純な店舗からの出火だけではなく、周囲からのもらい火や天災などによる損害もカバーしてくれるものがあります。カバー範囲が広くなれば保険料も上がりますが、逆に店舗で必要な範囲を絞り込めば、保険料の節約もできます。具体的な範囲は以下のようなものです。
- 火災
- 落雷
- 破裂・爆発(ガスなど)
- 風災、雹災、雪災
- 水災
- 建物外部からの物体の落下・飛来・衝突
- 漏水などによる水濡れ
- 集団行動に伴う暴力・破壊行為
- 盗難
- 予測不可能かつ突発的な事故
保険金額を決める
保険金額は、同じ補償範囲であれば、建物の評価金額、つまり万が一の時に受け取れる保険金によって保険料は変わります。保険料と保険金額は比例するので、節約を考えると保険金額を下げたくなります。しかし、万が一の時に1,000万円の復旧費用が必要となっても700万円しか保険金が降りなければ、足りない分は自己負担となってしまうため、節約はおすすめしません。
基本は、現状の建物の構造と補償額で保険金額は決まりますから、保険会社の提示に従ったほうがよいでしょう。相見積もりをとるのであれば、各社で条件を同じにして、掛け金を比較するのが賢い方法です。
家財の保証金額を決める
家財に対する保険金額の上限は、保険会社から提示されます。提示された金額が300万円だった場合、提示額の満額で契約するのか、100万円だけにするのか、あるいは家財保険へ加入するか否かを自分で決める必要があります。掛け金を節約するなら提示額の金額よりも絞ったり、あるいは契約しないという方法もあります。ただし、万が一の事態が発生した後に営業再開するための費用は、すべて自腹によって補填しなければなりません。したがって、保証対象を高額な設備や什器に絞ることをおすすめします。なぜなら、高額な設備に絞れば無駄がないだけでなく、もしもの時の購入金額を補填することが出来るからです。保険金額は、新規に設備を購入した場合の費用を算出することで決める方法がよいでしょう。
保険期間を決める
火災保険は、1年から36年間の範囲で決められます。短ければ掛け金は高く、長ければ割安になります。つまり、いつまで同じ場所で営業を続けるかという判断が必要となります。一般的には、5年程度の加入期間が多いようです。
以上の観点を組み合わせて、店舗に適した保険を選択しましょう。
まとめ
いかがでしょうか?
飲食店経営に限らず、ビジネスにはリスクがつきものです。リスクとは、起こる可能性があるが必ず起こるとは限らない、謂わば予測不可能なもののため、自分が注意してるだけでは避けられません。もしもの事故が起こった場合に、一時的に多額の費用を支払うリスクを負うよりも、毎年わずかな金額でリスクを回避した方が、トータルで考えれば割がいいといえるのではないでしょうか。
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