飲食店の利益率の目安は?店舗の経営状態を見極める方法と改善施策

最終更新日: 2024/05/16
開業・経営

売上高に対する利益を表す「利益率」は、飲食店経営を分析する上で欠かせないデータです。また、売上総利益や営業利益、原価率などを併せて見ることで、経営上のさまざまな問題点を抽出できます。分析結果を活用し、店舗の売上アップやコストダウン、経営ノウハウの蓄積につなげましょう。

当記事では、経営指標となる利益の種類や算出方法、飲食業の利益率目安などを解説します。また、飲食店の利益に影響を与える費用や重要な指標、利益率向上のための施策などもお伝えします。経営状況についてお悩みの方や、これから経営を始める方は、ぜひ参考にご覧ください。

飲食店の経営指標となる利益の種類と計算方法

飲食店の利益には「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」の5種類があります。損益計算書にも記載するこの5種類の利益について解説します。

売上総利益(粗利・粗利益)

「売上総利益」とは、売上高から「売上原価」を差し引いて残った利益です。飲食店では、提供した料理やドリンクなどで得た利益を意味します。

売上原価とは、販売商品にかかった仕入費・製造費などの金額の合計です。飲食店における売上原価は、料理等の原材料費(食材費)が該当します。そのため飲食店の売上総利益は、「売上高-原材料費」で算出することが一般的です。たとえば900円のハンバーグを提供する場合、原材料費が300円だと、ハンバーグ1品当たりの売上総利益は900円-300円の600円です。

売上総利益は店舗のおおまかな利益を表し、商品力の大きさにも比例します。売上総利益から判断できる経営戦略は次のとおりです。

・新メニューの考案や既存メニューの改善
・原材料費の見直し など

営業利益

営業利益とは、売上総利益から「販売費および一般管理費(以下、販管費)」を差し引いて残った利益です。そのため、売上総利益より経営実態に沿った利益になります。

販管費とは、「経営や管理、販売促進などの活動にかかる費用」を意味し、飲食店では以下のような費用となります。

  • 人件費
  • 賃貸料(店舗の家賃)
  • 水道光熱費
  • 広告宣伝費
  • 消耗品費
  • リース料
  • 通信費
  • 保険料 など

もし営業利益がプラスなら本業において黒字経営、マイナスなら赤字経営になります。営業利益の増減には販管費が大きく影響するので、経営戦略としては販管費の内訳を分析することが重要です。

経常利益

経常利益とは、本業以外で発生した利益(営業外収益)・損失(営業外費用)を、営業利益に加えて算出する利益です。財務活動で発生した損益というイメージです。

営業外収益は、預貯金の受取利息や不動産の賃貸料、有価証券の配当金・利息などが当てはまります。一方、営業外費用で代表的なのは借入金の支払利息です。借入金の返済額は費用にならないので注意しましょう。

税引前当期純利益

税引前当期純利益とは、税金を支払う前の利益です。事業と関係のない収益・損失である「特別利益・特別損失」を経常利益に加えて算出します。

特別利益は固定資産売却益や投資有価証券売却益などです。特別損失には火災・地震などの災害による損失、損害賠償費用、休業による損失などが該当します。

当期純利益

当期純利益とは、税引前当期純利益から支払う税金を引いて残った利益です。最終的に店舗がどれだけの利益が出したのかを表します。

法人税等とは、法人税・法人住民税・法人事業税です。
固定資産税や印紙税などは、販管費の「租税公課」として処理し、消費税は、貸借対照表の負債の部への計上となります。

当期純利益は、今後のために蓄えておく利益剰余金(内部留保)とする、新メニュー開発や従業員教育のために投資するなど、さまざまな使い道があります。

飲食業界の利益率の計算方法と目安

飲食業界の利益率計算方法と利益率の目安を説明するとともに、業界別の平均利益率からみた飲食業界の利益率についても解説します。

利益率の計算方法

飲食店における利益率は、売上高営業利益率(売上に対してどれくらいの営業利益だったのか表す比率)で表すことが一般的で、算出式は次のとおりです。

たとえば営業利益が15万円・売上高が100万円だと、15万円÷100万円×100で利益率は15%になります。

またもう1つの指標として使えるのが、売上高÷売上総利益で算出する「売上高総利益率(粗利率)」です。ハンバーグ1個900円・売上総利益が600円であれば、600÷900で売上高総利益率約66.6%。つまり7割弱の粗利だとわかります。

【業界別】利益率の目安

総務省が2020年に実施した「2020年(令和2年)個人企業経済調査 結果の概要」によると、卸売業の年間営業利益率は7.4%、衣料品・その他の小売業は10.5%でした。高い値を示したのは、その他サービス業の不動産業・物品賃貸業34.1%、医療・福祉の33%です。

飲食サービス業の年間営業利益率は12.9%でした。業界全体の平均の16.1%より約3%低くなっています。

仮に月商1,000万円でも、売上原価・販管費を差し引くと129万円しか残らない計算です。

とはいえ飲食業界の場合、経営スタイル・方針の違いで利益率の目安は異なります。たとえば薄利多売で回転率を上げる居酒屋は、売上高を増やすことで利益を出すスタイルです。一方、高級路線の料亭は、売上高よりも1人あたりの販売単価・客単価を高めることで利益につなげます。

【参考】2020 年(令和2年)個人企業経済調査(総務省)

https://www.stat.go.jp/data/kojinke/kekka/pdf/2020gaiyou.pdf

飲食店の利益に影響を与える費用

飲食店の費用は、大きく分けて固定費と変動費の2種類があります。飲食店の利益に影響を与える両者の特徴を把握しておきましょう。こちらでは、飲食店における固定費と変動費の基礎知識や、利益に与える影響についてご紹介します。

固定費

固定費とは、商品や売上、季節などさまざまな要因にかかわりなく、つねに金額が一定である費用のことです。具体的には、以下のような費用が該当します。

  • 家賃・共益費
  • リース・レンタル賃料
  • 減価償却費 など

ただし、店舗によっては売上で家賃が変動する「歩合賃料」方式を採用していることがあります。その場合、歩合で変わる金額については変動費に含めることがあります。

売上が多い月も少ない月も、固定費の金額は基本的に変わりません。売上が少ない月は、固定費が利益を圧迫してしまいます。反対に、売上を増やすことができれば、利益に対する固定費の影響は少なく済むでしょう。固定費を削減するか、売上を向上させることで、利益率を高めることができます。

変動費

変動費とは、商品や売上、季節などのさまざまな要因が影響し、毎月の金額が変わる費用のことです。主に以下のような費用が変動費にあたります。

  • 原材料費
  • 人件費
  • 水道光熱費
  • 消耗品費
  • 広告宣伝費 など

人件費は固定費に含めることもあります。ただ、時期によってアルバイトやパートスタッフのシフトを変える場合、毎月の給与の金額も変わるため、変動費に含めることがあります。

来客数が多く高い売上を達成できた月は、それだけ原材料費や水道光熱費、消耗品費などの変動費も増えています。売上が上がるのに比例して、利益率が高くなるとは限らない点を理解しておくことが大切です。

飲食店の利益率の管理に重要な指標

飲食店における利益率管理のためには、損益分岐点やFLコストといった指標を用いることがおすすめです。それぞれの特徴を確かめておきましょう。ここでは、損益分岐点やFLコストの計算方法、活用のコツを解説します。

損益分岐点

損益分岐点とは、収益と費用がプラスマイナスゼロとなる数値のことです。以下のように、固定費と変動費、売上高を用いて計算します。

損益分岐点=固定費÷{1-(変動費÷売上高)}

損益分岐点を算出すると、どの程度の売上を達成すれば黒字になるのかを判断できます。経営の目標値として設定できるため、そのために必要な施策を打ち出しやすくなるでしょう。

例えば、売上高が300万円、固定費が100万円、変動費が150万円の場合、損益分岐点は100÷{1-(150÷300)}で200万円とわかります。この場合、売上が200万円以上あると黒字を達成できるといえます。こちらの例では売上高300万円のため、黒字の状態であると判断できるでしょう。

上記のように損益分岐点を割り出せば、黒字経営か赤字経営かを見極めることが可能です。その上で、利益が出ていない場合は向上のために何が必要かを考えていくことが大切です。

FLコスト

FLコストとは、「原材料費(Food)」と「人件費(Labor)」の合計を表した数値です。飲食店において、原材料費と人件費は大きな割合を占めるコストとなります。

また、売上高に対するFLコストの割合は「FL比率」と呼ばれます。FL比率も飲食店の利益率を高めるために重要な指標の一つです。FL比率の計算式は以下の通りです。

FL比率=FLコスト÷売上高×100

FL比率を下げることができれば、利益の向上につなげることができます。一般的に飲食店における理想的なFL比率は60%前後といわれています。プラスマイナス5%までが適正値で、65%を超えてしまうと経営に大きな影響が生じることもあるため注意が必要です。まずは自店舗のFLコスト比率を割り出して現状を把握し、どのような対策を行えば良いか検討していきましょう。

FLコスト比率を下げたい場合、原材料費や人件費について見直すことが重要です。例えば、原材料の値上げによってコストがかさんでいる場合は仕入れ先の変更を検討すると良いでしょう。人件費の負担が大きい場合は、シフト管理について見直すことがおすすめです。スタッフ一人ひとりのスキルや曜日・時間別の必要人数などを考慮しながら、適切な人員配置を目指しましょう。

飲食店の利益率向上のための施策

各指標をもとにして現在の状況を見極めたら、利益率を向上させるために必要な施策を行っていきましょう。飲食店の利益率を高める方法はさまざまです。以下では、利益率アップを目指せる主な方法やポイントをご紹介します。

固定費・変動費を抑える

売上原価や販管費に当たる固定費・変動費を抑えることで、手元に残る利益を大きくできます。ただし、固定費は金額が固定で、削減が難しい支出です。コストカットを目指す際は、削減しやすい変動費の削減から取り組んでいきましょう。

たとえば原材料費削減のためには以下の施策が考えられます。

  • 一括仕入による割引の利用
  • 原材料のランクを下げる
  • 仕入れ量の見直し
  • 仕入れルートの見直し
  • メニューやレシピの見直し など

売上高÷売上原価で「原価率」を算出すれば、売上に対する原材料費の割合がわかります。飲食店の適切な原価率は25~30%と言われますが、実際は経営スタイルによって異なるので注意が必要です。

また、固定費は削減が難しいものの、うまく減らすことができれば大幅に支出を抑えることも可能となります。例えば、電力会社や通信会社などのプランに無駄がないか見直して、お得な条件のプランに変更すると固定費削減につなげられます。状況次第では店舗物件の家賃交渉を行い、毎月の賃料を引き下げてもらうこともできるでしょう。ただし、周辺の家賃相場や契約期間などによっては交渉が難しいこともあります。ほかには、リース契約の見直しを行うこともおすすめです。

利益率の高いメニューを多く提供する

提供するメニューを高利益率のものに変更することでも利益率アップは可能です。以下は高利益率のメニュー、いわゆる原価が安い料理の例です。

  • たこ焼き・お好み焼き・パン・パスタなどの小麦粉関連の料理
  • フライドポテトやポテトサラダなどのじゃがいも料理
  • アイスクリーム
  • お酒・ソフトドリンク・コーヒーなどの飲料全般
  • 枝豆 など

加えて、セットメニュー販売やセットで頼みたくなるメニュー展開などの工夫も取り入れましょう。

在庫管理を徹底して食材のロスを減らす

食材ロスを減らすことは、利益率の高い経営のために必須といえます。とくに生鮮食品や賞味期限のある原材料を取り扱う飲食業にとって、在庫管理は非常に重要なポイントです。もし廃棄すべき食材を提供して衛生事故が発生しようものなら、食材ロスどころか営業停止や損害賠償請求につながります。

飲食店の在庫管理の基本は次のとおりです。

  • 古い食材から使う「先入先出」の徹底
  • 在庫管理表の作成または在庫管理システムの導入
  • 定期的な棚卸しによる在庫数や賞味期限のチェック
  • 仕入れた食材に入庫日・賞味期限などの日付関係を記載
  • 食材の正しい温度管理(冷蔵・冷凍・常温など)や保管方法の周知 など

こちらの記事も参考にしてみてください。

回転率を上げる

店の回転率を高めることでも利益向上につなげることが期待できます。回転率とは、客席の数に対して、顧客が何回入れ替わったのかを表す数値です。以下の計算式で求められます。

回転率=1日の顧客数÷客席数

回転率がアップすれば注文数も増え、売上を増やすことができます。例えば、少人数の来店が多い場合は、テーブルを小さくして席数を増やすことで、より多くの顧客が来店できるようになるでしょう。ほかにも、注文から会計までのオペレーションを見直して時間短縮を図る、飲食スペースの変更などで滞在時間の短縮を目指すといった方法もあります。

ただし、適正な回転率の目安は飲食店の業態によっても異なります。例えば、滞在時間の短い立ち食いそばや牛丼を提供する店は高い回転率を維持することが大切です。対して、フルコースを提供するレストランのように滞在時間が長い店は、回転率は低めになります。そういった店は回転率を大幅にアップさせるのは難しいでしょう。回転率を高める工夫をしながら、別の施策も併せて実行することがおすすめです。

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飲食店における利益率は、売上高-売上原価(原材料費)-販管費で算出する営業利益を、売上高で除すことで算出します。利益率は原材料費・人件費・広告費の見直しや販売計画の策定・改善など、経営分析に利用できる重要な指標です。ほかにも、損益分岐点やFLコスト、回転率など、さまざまな指標を用いて利益率の管理を行うことができます。ご紹介した計算式や利益率向上のコツなども参考にしながら、自店舗の利益を高めていきましょう。

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