お店を開店した途端に、日々の取引を1つ1つ現金出納帳に記入していく必要があります。材料費・食材費は分かるが、調味料や調理器具は何と言う勘定科目か分からないといったように、たちまち記帳が前に進んでいかなくて難渋することになります。
その先にある仕訳作業や、仕訳帳・総勘定元帳の作成となってくると、さらに頭の中が大混乱となります。
しかし、勘定科目も仕訳も総勘定元帳も、実はそんなに難しいことではありません。簡単な作成ルールがあり、それさえ覚えればいいのです。 飲食店には1部に飲食店特有の会計処理がありますが、これも特別難しい処理はありません。
今回は、会計の中で必須の勘定科目や仕訳帳、総勘定元帳について、説明をしていきます。
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飲食店の経理の基本
飲食店経営において忘れてはならないのは、会計処理です。通常の店舗と飲食店の会計処理にはどのような違いがあるのでしょうか。
ここでまず、飲食店経営ならではの会計処理について具体的に見ていきましょう。
●現金主義
飲食店では、いろいろな理由で現金で支払いたいと考える人も多いため、店側としても現金で支払い処理をするための準備が欠かせません。例えば、割り勘で支払いたいという顧客もおり、現金だと分けて払いやすいという面があります。
日本は偽札の使用も少なく、現金を持ち歩いていても盗まれる心配もさほどないことから、ここ数年でキャッシュレス化も浸透してきているものの、いまだ現金での取引は一般的なため、現金でのやり取りのための十分な釣銭を用意し、キャッシュレス決済対応かつ現金が扱えるレジを準備する必要があります。
●減価償却
店舗経営を考えるにあたり、耳にすることが多い言葉ではないでしょうか。飲食店経営においても特に理解する必要のある言葉です。
簡単に言えば、減価償却と設備にかかわる一時的な支出を、その設備が使える年数に応じて少しずつ分割して計算していくことです。
例えば、飲食店の厨房機器はかなり高額です。もし、100万円の厨房機器を購入し、初月にその費用を計上したとします。後の月にはその設備のことを全く考慮にいれずに会計処理するとしたらどうでしょうか。
厨房設備自体は導入後何年も使っていくものですから、その計算方法ではバランスが悪いですね。それで、長い期間使われることを想定して購入した設備の費用については、使っていく年数に応じて、それぞれの月で費用にするという考え方が減価償却です。
飲食店では、厨房器具など、さまざまな高価な設備への投資が必要ですから、店舗経営においては特に理解しておく必要のある考え方ですね。
また、購入した設備は年数によっては劣化して使えなくなるかもしれませんので、そうしたことも考慮に入れて耐久年数を考えておく必要があります。
●必要に応じて、税理士や会計ソフトを使う
お店の大小にかかわらず、店舗のやりくりをするということは一つの会社を経営しているようなものです。
飲食店経営においては、経営者が時には自分でお店に立ち、仕込みや接客など、すべてを自分でこなす場合もあります。しかもそのうえで経理事務を自分でこなすとなると、本当に大変ですね。
経理事務は、慣れれば毎日だいたい1時間ぐらいかかるといわれています。
ひと月25日お店を開けるとすると、日々の経理に毎月25時間、しかもそこに月末の締め作業に合計約5~6時間が加わります。一月に約30時間を経理事務に使わなければならないとすれば、かなり大変です。
しかも、飲食店経営は、客層や立地から新メニューを考えて価格を決定し、社員教育をしたりと、すべきことは山ほどあるでしょう。それで、もちろん相応の費用はかかるとは思いますが、経理事務は税理士にお願いすることも検討できるでしょう。
では、いつから税理士にお願いできるでしょうか。
経営者によっては、最初はまずは自分で経理事務をして、経営が軌道に乗ってきて余裕が出てきたらお願いしようと考えている人もいますが、店舗経営は最初の段階が肝心です。
開店当時は何かと大変で、お店のやりくりもまだ不慣れなため、いろいろなことに普通以上に時間がかかるでしょう。しかも開店当初のお客さんがリピーターになってくれるかどうかが、今後の経営を大きく左右します。
お店の今後の成長を握る大切な時期に、会計処理や雑務に負われるよりは、経理に関することをいっそのことアウトソーシングしてしまう、というのも一つの考え方だと思います。
もちろん、そのためのコストがかかりますので、メリットとデメリットのバランスを考えておく必要はあるでしょう。
また、会計ソフトなどを導入して自分で経理事務をこなす方法もあります。
会計ソフトによっては、PCにインストールして使うものや、クラウドでいろいろなデバイスで対応可能なものなどさまざまです。
また、会計ソフトによっては、経理事務の手間を最小限に減らしていけるよう工夫されているものもありますので、スタッフには日々の経理事務をお願いし、自分は月末の締めの仕事だけをする、という方法もあります。
ここまでで、飲食店ならではの会計処理について考えてきました。
ここから飲食店に関係する勘定項目について見ていきましょう。
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勘定科目とは
勘定とは簿記の用語で、一定のルールに従って帳簿を作成し、取引の事実を記録、管理する技法のことです。簿記には単式簿記と複式簿記があり、小規模商店や飲食店の場合は、単式簿記(簡易簿記)を使用している所が多くみられます。
商売のすべての取引を勘定という技法で記録・管理しますが、それらの勘定の構成単位を勘定科目と言います。
一口に勘定科目といっても非常にたくさんあります。勘定科目は、大きく「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」に分けられます。「資産」「負債」「純資産」の3つは貸借対照表に関連し、「収益」「費用」の2つは損益計算書に関連します。それぞれ、事業所や会社の財務状態、年度の儲けの状態を表す重要事項です。
代表的な勘定科目
- 資産に属する勘定科目:現金、普通預金、商品、建物、貸付金、売掛金など
- 負債に属する勘定科目:借入金、未払金、前受金、買掛金など
- 純資産に属する勘定科目:資本金、資本準備金、利益準備金など
- 収益に属する勘定科目:売上、受取利息、雑収入など
- 費用に属する勘定科目:売上原価、販売費及び一般管理費など
費用に属する勘定科目は、売上原価と販売費及び一般管理費とあり、売上原価には、仕入れ高、期首製品棚卸高、期末商品棚卸高があります。
販売費及び一般管理費は非常に多くの科目があります。旅費交通費、消耗品費、事務用品費、地代家賃、賃借料、水道光熱費、通信費、広告宣伝費、租税公課、新聞図書費、修繕費、外注費、支払い利息、車両運搬具、給料、などがあります。
仕訳帳とは
仕訳とは、全ての取引を勘定科目を使って借方と貸方に分けていく作業のことです。仕訳帳は、仕訳を発生した順に借方と貸方に分けて記入する帳面のことです。 一般的に会計処理の最初の作業となり、次の工程として仕訳帳から総勘定元帳が作成できます。
借方・貸方とは、複式簿記の約束ごとで、借方が左で貸方が右に記載することになっています。借方と貸方の金額は常に同じでなければなりません。参考までに開店したラーメン屋さんの仕訳帳の例をあげてみます。
- 1月1日:現金100万円を元に○○ラーメン店を開業
- 1月2日:お店用にパソコンを20万円で購入。代金を5万円現金で払い、残りの15万円は翌月から3回払いとした
- 1月3日:ラーメンの麺を○○製麺から1.4kg(39,200円)を仕入れ
- 1月5日:ラーメンが30杯売れた。売上18,000円が現金で入金
- 1月7日:ラーメンが50杯売れた。売上30,000円が現金で入金
- 1月8日:麺だけ欲しい人に10食分送付。現金で4,000円入金、送料が500円かかった
以上を仕訳帳に記帳すると次のようになります。
総勘定元帳とは
総勘定元帳とは、仕入帳と同様主要な帳簿類の1つで、すべての取引を勘定科目ごとに記録した帳簿のことです。 仕訳帳はすべての取引を日付順に記録した帳簿ですが、総勘定元帳はすべての取引を勘定科目ごとに記録してあります。
仕訳帳から記録を転記したものとなり、この総勘定元帳から期末の財務諸表の貸借対照表、損益計算書が作成されます。 総勘定元帳の作成の目的は、単に取引の記録をするだけでなく、会社の財務状況を把握することです。勘定科目ごとに記帳されていますから、預金や借入金の勘定科目から残高を見ればすぐに状況を把握することができます。
飲食店でよく使われる勘定科目や経営指標
飲食店では主に、売上、仕入、現金からはじまり、販売費及び一般管理費の中では旅費交通費、消耗品費、事務用品費、地代家賃、賃借料、水道光熱費、通信費、広告宣伝費、租税公課、新聞図書費、修繕費、外注費、支払い利息、車両運搬具、給料などがよく使われます。
また、飲食店の経営には管理すべき重要な指標があります。店主が最も気になる原価率やFL率、そして効率的な利益管理に必要なFD率などは常に見ていなくてはならない指標でしょう。そして飲食店は他の業界と異なり水道光熱費が際立って多く、重要な管理科目となります。
原価率で使う勘定科目は、売上と仕入です。仕入は原価を構成する重要科目で、材料費・食材費などが充当します。
原価率(%) = 原価 ÷ 売上高 × 100
原価 = 売上高 − 原価(食材費、原材料費)
飲食店の原価率は概ね30%と言われています。しかし飲食店の形態によっては、原価率50%を超えても利益を出しているところがあります。
営業利益率も重要です。営業利益率で使う勘定科目は、仕入、給与、販売費及び一般管理費です。
営業利益率 = 仕入れ(食材費、材料費) + 給与(人件費) + 地代家賃、水道光熱費、減価償却費、消耗品費など販売費及び一般管理費 ÷ 売上高 × 100
で計算でき、飲食店が目指す管理値は10%ほどです。
また、一般的によく知られている管理指標にFL比率があります。使用する勘定科目は、売上高と仕入れ高及び給与(人件費)です。
FL比率 = FLコスト ÷ 売上高 × 100
FLコスト = Food(食材) + Labor(人件費)
FL比率の平均は一般的には55~65%と言われており、超優良店は50%代がキープされています。60%以上になると注意が必要となります。
もう1つ関心度の高いFD比率があります。FD比率とは、売上高に占めるFood(料理)とDrink(ドリンク)の比率です。使用する勘定科目は、売上高と仕入れ高ですが、仕入れの中身を分解して、料理関係の費用とビールやお酒、ソフトドリンクなどのドリンクの費用に分けます。
これはドリンクが料理よりも利益率が高いため、この比率を見ることにより、原価率、利益率を考察できる利点があります。つまり、ドリンクの比率が高ければお店全体の利益率が高いということになります。
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まとめ
いかがでしょうか。
会計処理の基本となる勘定科目や仕訳帳、総勘定元帳について触れました。飲食店でよく使う、または知っておいたほうがいい勘定科目について、ぜひ覚えていってください。