競合店調査は、店舗経営において欠かせない要素です。自社と競合他社を比較することで、自店の課題が明確になり、その後の経営戦略に生かすことができるからです。ただし、競合店調査の目的や実施手順を深く理解していなければ、競争力を得ることはできません。
そこで本記事では、競合店調査の目的や実施の流れ、調査方法などを解説していきます。おすすめのフレームワークも紹介するので、ライバル店の特長を分析したい事業経営者の方などは、ぜひご確認ください。
繁盛店や競合の調査の際の注目点についてはこちらの記事もご覧ください。
競合店調査を行う目的
競合調査を行うのは、自店舗をより良くするためです。店舗経営には、確実な答えというものはありません。トライ&エラーを繰り返し、より良くしていくしかないのです。ですから競合他社のすでに上手く行っている要素を参考にすれば、そうしたトライ&エラーが不要になったり、トライ&エラーの精度を上げたりできるようになります。つまり、競合調査をすることで、より効率的に売上や集客力を底上げできる可能性があるのです。
また、他店を見ることで、改めて自店を客観的に見ることができます。他店で良い・悪いと思った部分が、自店でどうなっているかを改めて考えられるはずです。さらに競合店にはないが自店では実現できる強みを探すなどして、差別化を図ることも大切です。
まだどんなお店にするか具体的にイメージできていない場合は、コンセプトなども含めて競合店を参考にすると良いでしょう。コンセプト決めについて詳しくはこちらの記事をご覧ください。
競合店調査の流れ
ここでは競合店調査の流れを説明します。どの店舗が調査対象になるのかを選定し、集めた情報を適切に分析していきましょう。
調査する競合店を選別する
最初に、調査の対象となる競合店の洗い出しを行いましょう。
同じ地域内(商圏内)に出店しており、同じターゲット(客層)を獲得している店をリスト化してください。調査対象を広げすぎると手間とコストがかかりすぎるため、調査の対象をしぼると良いでしょう。そのため、より自店にとって脅威となる店をリストアップすることをおすすめします。
洗い出しの注意点として、同業種だけでなく他業種も含めるようにしてください。全く別の商品・サービスを提供しているお店だとしても、ターゲットが同じであれば競合になり得ます。
調査する競合店の情報を収集する
次に、選別した競合店の特徴をまとめていきましょう。
具体的には、立地やサービスの内容、商品の価格帯などの情報を集めます。立地は特に重要視されやすい情報ですが、スタッフの接客力などを調査するのも効果的です。価格などの定量的なデータだけでなく、利便性なども調査すると良いでしょう。
情報収集の方法としては、Webサイトや情報誌、SNSなどが活用しやすいです。
調査する競合店への実地調査を行う
続いては、実際に競合店へ足を運んで現地を視察します。紙面上やインターネットだけでもある程度の情報は得られますが、それだけで競合分析を行うのは難しいからです。調査項目の例は以下の通りです。
・店内の雰囲気
・販売促進の取り組み(POP・店内放送)
・来店客数
・客の属性(年齢・性別)
・商品の品揃えや価格 など
店舗内を調査する際には、チェックシートやカメラなどを持参すると良いでしょう。撮影については、事前にお店の許可を得てください。
フレームワークを活用して分析する
最後に、競合店に関して収集した情報や実地調査の結果を分析します。分析結果から競合店の強み・弱みを把握し、自店の改善や差別化につなげていきましょう。
なお、漏れのない競合分析を行うためには、フレームワークを活用することをおすすめします。詳しくは後述しますが、3C分析やSWOT分析は代表的な手法です。
調査対象になる繁盛店・競合店のリストアップの方法
まずは調査対象となる繁盛店・競合店を探します。調査対象は、まずは開業予定のお店と似ているコンセプトのお店を優先的に考えましょう。かといって、全く同じである必要はありません。商圏やターゲット層、料理、業態などいずれかが共通していれば良いでしょう。もちろん全く異なるお店でも参考になる部分は多々あるのですが、優先順位は低いと言えます。
お店のリストアップは次のような方法で行います。
- 飲食業界に従事する友人・知人へのヒアリング
- 食通の友人へのヒアリング
- 食ベログやRettyなどの口コミサイトで3.5以上の評価で、自店とコンセプトが近いもの
調査対象の優先順位もこの順番です。信頼する友人・知人からの1次情報は質が高いからです。口コミサイトの点数は参考程度ではありますが、多くの人に支持されているという事実は重要なポイントです。
調査数は多ければ多いほどよいのですが、限界があります。また、店内でサービスを受けるところまで調査するとなると、飲食店であれば料金が発生することになり、費用がかかってきます。
肌感覚ではありますが、20件ほど調査した時点で、繁盛店が何で上手くいっているのかだいたいわかってくるものです。残りの60件も勉強にはなりますが、投資対効果が高いとは言えません。
「最低20件は調査する」ということはザックリとした指標になると思います。
繁盛店・競合店のチェックシート
調査に行っても、「おいしかった」「サービスの良い店だったな」で終わらせてはいけません。商圏内の競合他社として、なにが良くてなにがいまいちなのか、細かく採点して分析しましょう。その際の指針となるよう、分析のためのチェックシートを作りました。
excelに点数を入力するだけでグラフなどが自動的に反映されるので、視覚的にもわかりやすいシートになっています。(もちろん印刷して使っていただいても大丈夫です。)
重要な評価項目は以下の6つです。
- ファサード
- 内観
- 演出
- メニュー
- サービス・接客
- 料理
チェックシートの各項目について解説をしていきます。
1. ファサード
看板の位置、店名 一目で何の店か理解できるか。見やすく、親しみやすいイメージカラーやフォントを使用しているか。 入口装飾 ウェルカムボード、メニュー紹介、ポスターなど。入店前にお客様がどのような店かイメージできるか。 外観の印象 全体のイメージが統一されているか。清掃状態、入店のしやすさなど。
2. 内観
外観との一貫性 外観と内観の印象にズレがないか。 エントランス ウェイティングスペースがあるか。客席から入店者が気にならないか。 内装・インテリア 店のコンセプトとインテリアに統一性が取れているか。テーブルや椅子の品質など。 トイレ・洗面所 洗面所・トイレが、コンセプトに基づいて作られているか。清掃状況など。
3. 演出
客席配置 席数は適切か。また入口から客席までの動線がスムーズか、複数の通路を使い着席できるか。 照明の色と明るさ 店舗の雰囲気作り。料理をおいしく見せるための工夫。対面するお客様同士の表情の見え方など。 BGM 店のコンセプトに合っているか。 季節感 季節の花や小物などが飾られているか。 POP おすすめ商品が一目でわかるようなポスターやPOPの有無。特にテーブルPOPは販売促進につながりやすい。 テーブルウェア・カトラリー・食器 料理との一貫性があるか。一貫性がないと雰囲気が台無しになる。 清掃 店内はもちろん、店外も清掃が行き届いているかなど。
4. メニュー
装丁・デザイン メニュー表がその店のコンセプトにあったデザインかどうか。 カテゴリ数・内容 カテゴリ数がいくつあるのか。カテゴリ分け・内容がお客様にわかりやすいものになっているか。 メニュー数 全部でいくつのメニューがあるか。 おすすめメニューや季節感の打ち出し おすすめメニューや季節メニューはどんな打ち出し方をしているか。そのお店が計画的に商品開発をしているか否かの判断にもなる。 最多価格帯 最多価格帯をカテゴリ別に調べる。正確に計算する必要はない。 平均客単価 人気メニューや周りのお客さんの食べているものなどから平均客単価をシミュレーションする。客単価は食ベログのデータも参考になります。
5. サービス・接客
入店時挨拶・身だしなみ 従業員の第一印象。親しみやすい笑顔、声のトーン、言葉づかい、清潔感のある身だしなみなど。 店員数 店員の人数は適切か。 座席案内 お客様のペースに合わせて席まで案内できているか。椅子を引くなどの対応があるか。 メニュー紹介 おすすめメニューの紹介の仕方など。 オーダー オーダーミスがないように注意深く聞いているか。ファミリーレストランで一般的になった「復唱」はスマートではないため、行わないお店もあるので要注意。 オーダーから提供までのリードタイム オーダーから最初の料理が出てくるまでの時間を確認。また一品一品に時間がかかっても、その間を長く感じさせない工夫がされているか。 提供 テーブル前でもたつかないか。会話や食事の妨げにならないようにスムーズな提供がされているか。また料理の説明がわかりやすく丁寧か。 待機姿勢(気配り) 飲食中になにかを頼みたいときにすぐに気づいているか。気配りができているか、店を出る際に店員全員が声を掛けによって送り出しているかなど。感謝の気持ちを表していることが重要です。
6. 料理
盛り付け 食欲が刺激され、綺麗な盛り付けができているか。 鮮度 魚や野菜など生鮮品のチェック。 ボリューム 価格に見合った適切な量か。 温度 温かいものは温かく、冷たいものは冷たく調理されているか。 原価 材料や量からおおよその原価を見積もり、基本的に原価が3割以下に抑えられていれば合格になります。
競合店調査に活用できるおすすめのフレームワーク
フレームワークを活用すれば、競合店調査の分析がより効率的に行えます。ここでは、おすすめのフレームワークとして、3C分析とSWOT分析を紹介します。
3C分析
3C分析とは、Customer(市場・顧客)、Company(自社・自店)、Competitor(競合店)という3つのCについて分析する方法です。自店と外的要因を比較することで、自店の弱みや強みを明らかにすることができます。また、市場の動向や顧客ニーズを把握できるので、経営戦略の策定に役立ちます。
注意点として、Customer、Competitor、Companyの順に進めることが大切です。先に顧客や同業他社の視点を把握することで、客観的な分析がしやすくなります。
「SWOT分析」については以下で詳しく紹介します。
SWOT分析
SWOT分析とは、自社の現状をさまざまな角度から整理するためのフレームワークです。自社の「内部環境」と「外部環境」について、それぞれの「プラス要因」と「マイナス要因」を考察します。具体的には、事業の状況について、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の4項目で分析し、経営戦略の策定や課題解決に活用する手法です。
内部環境×プラス要因=強み(Strength)
強みとは、自社が得意なことや所有しているものなどを指します。例えば、品質の高さ、人材力や地理的優位性などが挙げられます。強みを生かして市場シェアを拡大することは、ビジネスにおいて特に重要な戦略といわれています。
内部環境×マイナス要因=弱み(Weakness)
弱みとは、自社が苦手なことや所有していないものなどを指します。例えば、価格の高さ、人材の高齢化などが挙げられます。時間をかけて弱みを克服する方法もありますが、事業撤退することも戦略の1つです。
外部環境×プラス要因=機会(Opportunity)
機会とは、経済や社会といった環境の変化が、自社にプラスに働くことです。例えば、コロナ禍をきっかけとする巣ごもり需要の増加などが挙げられます。生活様式の変化によって、ネット通販やフードデリバリー市場に注目が集まり、新たなビジネスチャンスが生まれました。
外部環境×マイナス要因=脅威(Threat)
脅威とは、経済や社会といった環境の変化が、自社にマイナスに働くことです。例えば、コロナ禍における飲食店の営業規制などが挙げられます。大人数での飲食が難しくなったので、従来のビジネスモデルが通用しづらくなりました。
競合店の調査結果を分析し、自店の差別優位性を確立する
ここまでは、競合他社や自社の客観的な特徴や各々の立場を把握する方法を解説してきました。続いては、整理してきた情報を基に経営戦略を策定していきましょう。
良いところは学び、アレンジする
繁盛しているとしたら、そこには必ず理由があります。ここで重要となるのが「なぜそのようにしているのか」「こうしているからウケているのではないか」と仮説を立てることです。その上で、自店舗でも踏襲できるところがあれば自店流にアレンジして展開できないか考えてみましょう。
弱いところは差別化できないか考える
また、競合店に弱いところがあるのであれば、チャンスかもしれません。自店舗ではそこを磨き、強みとすることで差別化ポイントを明確にしましょう。
場合によってはターゲットの変更も検討する
これから開店を考えているのであれば、同じ商圏で同じ客層を狙って、競合店に勝てるのかを改めて考えてみて、場合によっては狙う客層を変えてみるのも良いかもしれません。また、競合調査の中でトレンドを掴み、短期的な売上アップを目指す手法もあります。
定期的な競合店調査が自店の売上を左右する
競合店調査を行うことで、自店の強みや弱みを客観的に把握できます。その中で、差別化ポイントや参考にできる部分が見つかるので、自店の経営改善につながるのです。また、競合店の動向を分析すれば、顧客ニーズやトレンドを読み取ることが可能です。自店のビジネスモデルやサービスの改善などを目指す場合は、本記事で紹介した流れに沿って調査を実施することをおすすめします。
なお、競合店調査では評価項目を明確にしておくことが大切です。担当者の主観だけでは不十分なので、調査の精度を高めるため、チェックシートを活用してみてください。
本記事で紹介したチェックシートはこちらからダウンロードできます。