新型コロナウイルス感染拡大により、深刻な影響を受けている飲食店も少なくありません。その中で新規事業として「ネット通販」を始める飲食店も増えています。
しかし、ネット通販はそのままお店の商品を売れば良い、というわけではありません。店内提供やテイクアウトとは違う免許や準備が必要です。
今回の記事では、飲食店がネット通販を始める際の準備方法や注意点、またお勧めの販売サイトや事例をご紹介します。
ネット通販を始めるための準備
まずはネット通販を始めるための準備を行ないます。
ネット通販を行なう際のルールは自治体によって異なることがありますので、必ずそれぞれの段階で管轄保健所に相談し、指示や許可を得るようにしましょう。
保健所に相談し、営業許可を得る
飲食店経営は「飲食店営業許可」を取得すれば店内提供はもちろんのこと、基本的にはテイクアウトやデリバリーも新たな許可なしに行うことができます※1。
しかし、ネット通販の場合は新たに許可を得る必要があります。
許可の内容は何を販売するかによって変わります。例えば、「お店で提供しているオリジナルドレッシングをネットで販売したい」という際は「ソース類製造業」、「缶詰又は瓶詰食品製造業」が必要になる場合があります。
うどん屋やラーメン屋などが麺をネット販売する際は「めん類製造業(麺)」、「そうざい製造業(スープ、具材など)」が必要になる場合もあります。製造方法によって異なる場合がありますので、販売する商品を決めた後に保健所に相談しましょう。
※1 ただし、食品営業許可申請事項変更届の提出が必要
※1 販売する食品(例:パン、お菓子など)によっては製造業の許可が必要になる場合がある
販売する商品の準備をする
保健所への相談と並行し、販売する商品の準備を行ないます。費用や手間がかかるものが多いので、あらかじめ行うべきことを整理し、計画的に進めていくようにしましょう。
【1】商品を決める
まず販売する商品を決めます。店内で提供しているメニューもしくは食材をパッケージ化するのが早いでしょう。例えばラーメン屋さんなら麺とスープ、具材をセットにしたもの、カフェならオリジナルブレンドのコーヒーやサラダのドレッシングなどが挙げられます。
お店の看板商品であるとともに、衛生管理のしやすいもの、送りやすいものといった観点からも選ぶと良いでしょう。
【2】飲食店の厨房と製造の厨房は分ける
上記でご紹介した製造業の許可を取るためには、飲食店の厨房を製造の厨房を分ける必要がある場合が多いです。飲食店経営のかたわら、ネット通販を始めたいという方には非常に大きなハードルになります。
しかし、これは必須ではなく、メニューや厨房設備によっては厨房を分けなくても許可が得られる可能性があります。まずは管轄の保健所に相談してみましょう。
【3】食品表示の準備
調理した食品をネット通販で販売する際には食品表示法に基づいた食品表示をつけなくてはなりません。食品表示に掲載する主な情報には以下のようなものがあります。
- 名称
- 原材料名
- 内容量
- アレルギー表示
- 賞味期限
- 保存方法
- 製造者
- 栄養成分表示(省略が認められる場合あり)
食品表示法の詳細については各自治体が配布している教材用資料やパンフレットなどで確認してください。
食品表示ラベルは自分でプリンターを使って印刷するか、業者に作成してもらって準備します。自分で作る場合は専用のアプリもあります。スマートフォンから簡単に操作、印刷ができるため非常に便利です。
【4】値段を決める
商品が決まったら値段を決めます。飲食店を経営されている方なら基本的な値段の付け方はご存じだと思いますが、改めて基本的な「原価率で計算する方法」をご紹介しましょう。
例えば、原価1,000円の商品を原価率3割で販売したい場合は、以下のように計算します。
原価(1,000円)÷原価率(0.3)=販売価格3,333円
ネット通販の場合は手数料や梱包料、送料(販売者負担にする場合)もかかりますので、それを加味して価格を決めると良いでしょう。
また、単に原価率やコストのみから計算するのではなく、扱う商品やターゲット層、競合の存在などさまざまな要素を加えて、戦略的に価格を決めていきましょう。
価格に影響する要素とそれを加味した価格の決め方を以下に列記しますので参考にしてください。
- 競合の価格:競合より同程度か安く販売する(戦略によっては高く販売する)
- 需要:いくらなら買ってもらえるかを考える
- 商品のライフサイクル:出始めは安く、後から上げるなど
- 他の自社商品:目玉商品を安くし、他の商品で利益を得る
- 名声価格:高級食材やメニューなどの場合、あえて価格を高く設定することで消費者に「これだけ高いのだから、良い商品なんだろう」と思ってもらう
【5】検査機関で検査・確認をする
販売する商品の試作ができあら、検査機関に検査に出します。検査にはさまざまな種類がありますが、大腸菌などの菌やウイルスの検査は最低限必要です。大腸菌の検査で陰性にならなければ、商品を出荷することはできません。
ほかにも賞味期限の検査やアレルギー物質の検査、残留農薬検査、異物混入検査などがあります。食の安全は現在非常に重要視されていますので、これらの検査も行っておくと良いでしょう。
梱包・発送の準備をする
ネット通販では商品を作るだけではなく、梱包や発送の準備も必要です。何を送るかによって手間やコストが大きく変わりますので、商品の準備と並行して梱包・発送についても考えていくと良いでしょう。
【1】「食品の冷凍または冷蔵業」の免許が必要
冷蔵、冷凍発送が必要な商品を扱う場合は、食品の冷凍または冷蔵業の免許が必要になりますので注意しましょう。
【2】送料を決める
商品価格と同様、送料も販売数に大きく関わる重要な要素です。
ユーザーに実費負担をしてもらえれば良いのですが、送料の有無や価格で購入するかどうかを決めるユーザーも多いため、できる限り送料は抑えたいところです。
ネット通販で良く採用されているのが「〇円以上で送料が安くなる(無料になる)」という設定です。ユーザーのついで買いを誘発し、1回当たりの注文金額を上げることができます。
【3】段ボールなどの準備
商品によっては封筒などでも送れる場合がありますが、ユーザーが初めて目にするのが梱包であるため、やはり段ボール箱などでしっかり梱包を行なう方が信頼性につながります。
専門業者に依頼すればお店のロゴ入りの段ボール箱を作ってもらえますので検討してみると良いでしょう。
また、保冷材や緩衝材、ガムテープなどもそろえ、梱包用のスペースも確保しておく必要があります。
【4】必要書類の準備
送付の際には納品書や送り状の同梱を忘れないようにしましょう。また、ショップカードや商品案内のチラシなども入れておくとリピーターの獲得につながります。
ネットショップの開設
ネットショップの開設方法は大きく分けて以下の3種類です。
- 既存の販売サイトに出店する
- Web制作会社にサイトを制作してもらう
- 自分でネットショップを制作する
それぞれに手間やコストが異なり、一長一短ありますので、自身のスキルや予算に合ったものを選びましょう。現在では無料のショップ制作サービスもあるので、まずはそちらでユーザーの傾向やニーズをつかむというのも一つの手です。
本格的に通販事業を行うのであれば、大手の販売サイトへの登録や自店舗のサイト作成を検討した方が良いでしょう。
おすすめ販売サイト
販売サイトを選ぶ際に重要なのは、ネット販売の目的を明確にすることです。
あくまで実店舗経営がメインで、ネット販売は補完的なものなのか、業務転換してネット販売に注力するのか、また販売する商品の数や単価などを考え、それに合った販売サイトを探すことが必要です。
特徴ごとにおすすめの販売サイトをご紹介しますので参考にしてください。
【初心者向け】BASE
初心者の方にお勧めなのが「BASE」です。無料でオープンでき、顧客管理やセール、メールマガジンといった機能を無料で追加することも可能です(一部有料)。
ただし、販売個数ごとに手数料がかかるため、特に単価の低い商品を扱う場合は手数料が高くなってしまうことがありますので注意が必要です。
【初心者向け】Shopify
ネット通販初心者だけどサイトのデザインにはこだわりたい、という場合はShopifyがお勧めです。1,000種類以上あるテンプレートの中から選ぶだけで、美麗なネットショップを作ることができます。
月額使用料はベーシック、スタンダード、プレミアムと段階があり、ショップの成長に合わせて機能を増やしていくこともできます。14日間の無料体験もありますので、まずは試してみると良いでしょう。
【上級者向け】楽天
楽天はご存知の通り国内3大モールの1つで、1店舗当たりの売り上げは最大となっています。認知力と信頼性は折り紙付きで、1億1980万以上※の楽天IDへ向けて商売ができるという点が最大の魅力です。
※ID登録完了後1回以上ログインをしたことのあるID(退会者除く)
「お買い物マラソン」などのキャンペーンに参加できることや、楽天ポイントが使えることも売り上げ向上やリピーターの確保に有効です。
ただし、他店に比べて出店料が高く、また競合店が多いため検索の下位に入ってしまうと売り上げをあげるのが難しいというデメリットがあります。自店舗や商品のアピールをしっかりして、集客力を上げる努力が一層必要になります。
ネット販売で大きく売り上げを出したい、今後はネット販売に注力したいという方に向いたサイトです。
ネット通販を始めた飲食店の事例紹介
続いてネット通販を始めた飲食店の事例を紹介します。
筋肉食堂
高タンパク・低カロリー食レストラン「筋肉食堂」を運営するTANPAC株式会社は、コロナ禍で実店舗の営業が厳しくなる中、迅速に販売サイトを立ち上げ、弁当の販売を行いました。
すると1か月で数千食以上が売れ、コロナで失った売り上げをネット通販の売上でカバーできるようにまでなりました。
健康や身体に対する意識が強い人に特化した個性的なメニューを提供したということはもちろんのこと、Instagramによるユーザーとのコミュニケーションを重視しており、ユーザーの投稿からさらなるユーザーが広がるといった流れを作れたという点も勝因となっています。インターネットならではの強みを生かした戦略が功を奏したケースであるといえるでしょう。
つばめグリル
洋食レストラン「つばめグリル」を展開する株式会社つばめは、EC事業「フレッシュつばめ便」をスタートし、レストランで提供している人気メニューの販売を行っています。
商品は「つばめ風ハンブルグステーキ」や「ロールキャベツ」「自家製ソーセージ」「ニシンの酢漬け」などで、出来たてを即冷凍、スピーディーに出荷しています。
現在ではさらに実店舗では提供していないオンライン限定のセット「PREMIUMシリーズ」を開発、販売を行っています。
業態転換支援(新型コロナウイルス感染症緊急対策)事業を活用しよう
都内の飲食店であれば、ネット販売を始める際業態転換支援事業を活用することができます。
これは公益財団法人 東京都中小企業振興公社が運営する事業で、東京都内で飲食業を営む中小企業者(個人含む)を対象とし、新たなサービスを始める際に最大100万円を助成するというものです。
この場合の「新たなサービス」とは「テイクアウト」、「宅配」、「移動販売」が該当しますが、ネット通販も一部対象となります。条件は「自店舗で製造したもの」を「自社のサイトで販売する」ことで、例えば楽天などを利用して販売する場合は対象になりませんので注意が必要です。
また、それ以外にも「事業再構築補助金」を利用するという手もあります。
これはウィズコロナ・ポストコロナに対応した新分野展開や事業再編、事業・業種・業態転換という思い切った事業再構築に意欲を持つ中小企業を支援するために中小企業庁が設けたもので、申請要件を満たし、事業計画書を提出、採択を受けることで補助金が支給されます。詳細は以下の記事をお読みください。
関連記事:事業再構築補助金でコロナ禍に対応!主要要件と審査項目をご紹介します
飲食店でネット通販を始めるための大切なポイント
最後に飲食店でネット通販を始めるための大切なポイントをご紹介します。
必要な許可や免許を整理する
先ほどご紹介した通り、ネット通販を始める際には飲食店経営とは異なる許可や免許が必要となります。必ず事前に確認し、必要な手続きは全て済ませておくようにしましょう。
販売サイトの手数料に注意
ネットショップの中には使用料が無料というものもあります。試しにネット通販をしてみようという初心者にとってはたいへんありがたいものですが、売り上げごとに手数料がかかる、決済手数料が高いというケースもあります。
使用料のみに目を向けるのではなく、トータルの費用を確認し、商品の単価や販売数、ショップの規模に適した販売サイトを選ぶようにしましょう。
顔が見えないからこそ気持ちを込める
飲食店経営とネット通販の大きな違いは、「オーナーの顔が見えるか見えないか」というところにあります。ネット通販はオーナーの顔が見えないため、ユーザーとの関係が結ばれにくいというデメリットがあります。
商品と一緒に季節の便りやおいしく食べる方法、またちょっとしたオマケなどプラスアルファの心遣いを添えることで良い印象を持ってもらえ、リピート購入につながります。顔が見えないからこそ気持ちを込めるという点に気をつけて、心を込めて商品を送るようにしましょう。もちろん、梱包の丁寧さも重要です。
まとめ
新型コロナウイルスの影響を受け、活路を開く手段としてテイクアウトやデリバリーを始める飲食店が増えています。ネット通販もそうした手段の一つですが、必要な準備や費用が非常に多く、ハードルは高めです。
しかし、その地域にユーザーが限定されるテイクアウトやデリバリーと異なり、日本中に、場合によっては世界中に販売できるという点に魅力があります。
コロナ禍におけるピンチを大きなチャンスに変えるために、ネット通販を検討してみてはいかがでしょうか。
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